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なっとく法律相談  2006年4月 3日 更新

誰が噂を流しているかわからなくても訴えることはできる?

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Q.

 自営業をしています。ところが近頃、前職の同僚などから「会社の金を横領した」との噂をされています。それが原因で、売上まで減少しています。
 このまま放置しておくことはできないため、法的措置に訴えたいのですが、誰が噂を流しているか特定ができません。
 加害者が特定できないまま、民事上の損害請求や刑事告訴をすることはできないでしょうか。

(40代・男性)

A.

 不法行為の被害者となった場合、二つの方法が考えられます。一つは、民事責任を追及して損害賠償請求当をする方法、もう一つは刑事告訴して刑事責任を追及する方法です。
 この二つは法的性質が異なるので、どちらか一方を選んでも良いし、両方行使しても構いません。その場合、並行して行っても良いし、片方を先行させても構いません(ただし、消滅時効公訴時効には注意が必要です)。 国民には裁判を受ける権利(憲法32条)が保障されているのですから、泣き寝入りをすることはないのです。

 しかし、加害者が特定できないという状況では、どちらの方法を取るにせよ、困難が伴います。
 まず、民事裁判で損害賠償を請求する場合には、裁判所に訴状を提出し(民事訴訟法133条)、相手方に訴状の送達がなされなければなりません(同138条1項)。訴えられた相手である被告人は訴状に記載された請求の趣旨及び原因を見て防御方法を決定するので、訴状の送達なしには裁判は始まらない(始められない)のです。ところが、相手方が特定できないのでは、訴状に「当事者」(同133条2項1号)も記載できないばかりか、訴状を送達することもできません。
 付け加えれば、不法行為による損害賠償を請求するには、不法行為と損害の発生に因果関係があることが必要ですし、「損害の発生」、すなわち損害額としていくら請求するかを決める必要もあります(民法709条)。

 例えば「営業上の売り上げが落ちた」という事実があり、加害者が流した噂が原因として売り上げの下落分を加害者に賠償させたいのであれば、「加害者が噂を流したこと」と「売り上げ下落」の間に因果関係があること(売り上げが落ちたのは噂が原因であること)を立証しなければならないのです。あなたが「そう感じられる」というだけでは足りません。証拠を提出して、裁判官を納得させなければならないのです。しかし、ご相談文を拝見する限りでは困難といわざるを得ません。

 次に、刑事告訴する場合です。わが国では、私人が私人を訴えるのではなく、検察(国)が被害者に代わって加害者の刑事責任を追及するという方法を採っています。被害者は犯罪が行われたことを、被害届を出して警察や検察に知らせます。それを受けて警察や検察は捜査を開始します。
 ところで、被害届を出す段階において犯人が特定できないということは、しばしばあることです。例えば「泥棒に入られた」という事実はあるが、犯人は逃げてしまって、姓名、所在が不明であるというような場合です。この場合、犯人を突きとめるのは警察・検察の職務であり、被害者はそれに協力するだけでよいのが原則です。
 しかし、噂を流した者を名誉毀損罪で告訴するとしても、「元同僚のうちの誰かが噂を流したはずだ」という程度の特定では、犯罪の性質上、捜査を開始することができません。

 もちろん、あるグループが犯罪を行っている疑いがあるという届出があり、その内偵から捜査が開始されることもあります。しかし、本件の事情の下で、犯人が特定できないということになると、「そもそも犯罪が存在しない」と判断されてしまう可能性が高いのではないかと思われます。

 法的措置を採ることをお考えなら、誰が、いつ、どのような内容の(虚偽の)噂を流布したのか、できる限り具体的に把握することが必要です。それに同席したという人を探すのも一法です。

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