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なっとく法律相談  2007年12月 3日 更新

痴漢の冤罪事件で受けた損害の請求はできる?

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Q.

 先日、通勤中に女性から痴漢と間違われました。その女性は「多分この人だと思う」と曖昧な供述をしていましたが、後日、真犯人が逮捕されて私の無実は証明されました。ところが、真犯人が逮捕されるまでの間、その女性が「私が痴漢をした」という噂を近所中に広めていたため、私の子供は学校で虐められ、勤め先にも事件のことが知られた結果、仕事にも支障を来たすようになりました。
 以上のような私たち家族が受けた被害に対し、痴漢の被害者である女性に損害賠償請求をすることはできないでしょうか?

(20代:男性)

A.

 本件であなたが受けた被害は、(1)痴漢と間違われたことによる財産的・精神的損害と(2)噂を広められたことにより虐めを受けた子供の財産的・精神的損害および勤め先に知られて仕事がし難くなったことによる財産的・精神的損害の2つに分けることができると思われます。では、これらの損害について、その賠償を請求できるのでしょうか?

(1) 痴漢と間違われたことによる財産的・精神的苦痛について

 あなたは電車内または駅で彼女に現行犯逮捕刑訴法212条213条)されたものと推察されますが、私人による現行犯逮捕が適法となるには(i)具体的な犯罪の嫌疑、(ii)逮捕の必要性〔逃亡や罪証隠滅のおそれ〕、(iii)現に犯行を現認したことが必要であり、これらの要件の欠如を彼女が知っていた場合(故意)または容易に知りえた場合(過失)、彼女の逮捕行為は民法上の不法行為民法709条710条)に該当します。ただ、痴漢事犯の場合、犯人と被害者に面識はなく、また混雑した通勤時の駅でのことですから、犯人に逃亡のおそれがあると考えるのが一般的です。そこで、痴漢事犯の場合には、通常、(ii)の要件は備わっています。問題は、(i)と(iii)の要件についてです。
 これらの点について、近年の裁判例は「電車の混み具合」や「受けた痴漢行為の態様」、「犯人と間違えた人と被害者の位置関係」などを考慮要素に判断をしています(東京地八王子支部判H18.4.10、東京地判H14.9.3参照)。つまり、それらを考慮した結果、被害者が犯人を間違えたことに合理性があると認められる場合には、(i)(iii)の要件についても備わっていると考えられます。従って、その女性の逮捕は適法であり、不法行為は成立しないと言えるでしょう。なお、痴漢の冤罪事件であっても、現実の裁判では痴漢被害者への損害賠償請求は否定されるのが大勢です。そのため、本件においても、痴漢と間違われたことによる損害の賠償請求は否定される可能性が高いと思われます。

(2)噂によって虐めを受けた子供および仕事がし難くなったあなたの財産的・精神的損害について

 「公然と他人の社会的名誉を害する行為」は刑法上の名誉毀損罪に該当する行為であり(刑法230条)、彼女が「あなたが痴漢をした」という噂を近所に広めた行為はまさにこれに該当します。そして、民法も名誉毀損行為を不法行為の一類型として予定していますので(民法723条)、彼女のそのような行為は民法上の不法行為にも該当します。なお、たとえ社会的評価を低下させるものではなかったとしても民法709条および710条の要件を満たす限り、民法上の不法行為に該当することになります。
 もっとも、民事上・刑事上を問わず、名誉毀損行為が公共の利益に関して行われた場合には、一定の要件の下で名誉毀損行為の違法性が阻却される〔違法ではないとされること〕場合があります(同法230条の2:最判S41.6.23)。ただし、そのためには行為者(彼女)が「噂の内容が真実であると確実な資料・根拠に照らして誤信した」と言えなければなりません(最判S56.4.16)。そのため、噂を広めるまでの間に何か確信的な根拠を得ていた場合でない限り、被疑者に過ぎないあなたを「痴漢」として触れ回った行為について、違法性阻却されることはないと思われます。
 以上のように、彼女が「あなたが痴漢をした」という噂を広めたことは名誉毀損行為に該当すると思われます。したがって、彼女が噂を広めたことを原因に虐めを受けた子供は、その結果として受けた精神的・財産的な損害の賠償を彼女に対して請求することができます(民法709条710条)。同様に、彼女が噂を広めたことから仕事がし難くなったあなたは、その結果として受けた精神的・財産的な損害の賠償を彼女に対して請求することができます(709条710条)。

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