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裁判員制度

 2005年2月15日、「法、納得!どっとこむ」を運営するNPO法人リーガルセキュリティ倶楽部より、法務省、最高裁判所、日本弁護士連合会宛に、読者の皆さまからお寄せいただいたご意見とともに「裁判員制度に関するご意見をお聞かせください」を送付いたしました。
 これに対し、2005年2月28日に法務省 裁判員制度啓発推進室、最高裁判所 事務総局より、3月1日に日本弁護士連合会 裁判員制度実施本部ご回答いただきましたので、ご報告を兼ねて以下に掲載いたします。

 平成16年(2004年)5月21日に「裁判員の参加する刑事裁判に関する法律」(裁判員法)が、成立しました。公布の日(平成16年5月28日)から起算して5年を超えない範囲内において政令で定める日から施行するとされていますから(同法附則1条)、遅くとも平成21年(2009年)5月までには裁判員制度がスタートすることになります。

 実際に制度がスタートするまで4年以上あるということもあり、ピンとこない人も多いかと思います。しかし、法律が成立したからには、あなた自身が裁判員になる可能性もあるわけです。

裁判員制度とは何か?

 裁判員制度とは、「裁判員の参加する刑事裁判に関する法律」(裁判員法)に基づいて創設される制度で、地方裁判所における刑事裁判のうち、特に重大な刑事事件の裁判について、裁判官とともに有権者から選ばれた裁判員が裁判を行う制度です。
 海外の類似の制度として、米国や英国などで導入されている陪審制がありますが、陪審制では陪審員は裁判官から独立して証拠認定と被告の有罪無罪を決める点で、裁判員制度とは異なります。むしろ、裁判官と市民から選ばれた参審員がひとつの合議体を構成して裁判する参審制に近いといえます。参審制はドイツやフランスなどで採用されています。

 このような制度が導入された目的として、裁判員法1条には、「司法に対する国民の理解の増進とその信頼の向上に資する」ことが挙げられています。選挙を通じて国民のコントロールを受ける内閣や国会と異なり、裁判所は少数者の人権を保護する観点から、強い独立性が与えられてきました。しかし、一方で凶悪事件について前例を重視するあまり、市民感情からすると刑が軽くなる傾向があり、批判を受けることもありました。裁判員制度の導入には、裁判に国民が直接関与できるようにすることで、国民に関心を持ってもらうとともに、こうした批判を緩和するねらいもあるのです。

どんな事件が対象になるのか?

 対象となる事件は、(1) 死刑又は無期の懲役禁錮に当たる罪に関する事件や、(2) 法定合議事件(法律上合議体で裁判することが必要とされている事件)であって故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪に関するものです(裁判員法2条1項)。例えば、殺人罪、強盗致死傷罪、傷害致死罪、現住建造物等放火罪などがこれにあたります。平成15年の対象事件は、全国で3,089件ありました。

裁判員になるのはどんな人か?

 裁判員となる資格があるのは、衆議院議員の選挙権を有する者(20歳以上の男女)であって、以下の事由にあてはまらない人です(13条)。

1. 欠格事由(14条)

  1. 国家公務員になる資格のない人
  2. 義務教育を終了していない人
  3. 禁錮以上の刑に処せられた人
  4. 心身の故障のため裁判員の職務の遂行に著しい支障のある人

2. 就職禁止事由(15条)

  1. 国会議員、国務大臣、国の行政機関の幹部職員
  2. 裁判官、検察官、弁護士、弁理士、司法書士など
  3. 大学の法律学の教授、助教授
  4. 都道府県知事及び市町村長
  5. 自衛官
  6. 禁錮以上の刑に当たる罪につき起訴され、その被告事件の終結に至らない人
  7. 逮捕又は勾留されている人

 さらに、具体的事件において、被害者や被告人の関係者なども裁判員になることができません。

裁判員は何をするのか?

 裁判員は公判期日に出頭し、刑事裁判手続の冒頭から最後まで、その審理に出席します。具体的には、検察官の起訴状朗読に始まり、検察官と被告人・弁護人双方の主張と証拠調べが行われます。そして最後に検察官の最終意見陳述(いわゆる論告求刑)と弁護人の最終意見陳述(いわゆる最終弁論)が行われて公判審理は終了です。
 公判審理の後、裁判員は裁判官とともに、被告人の有罪・無罪を決定し、さらに有罪の場合は刑期等を評議します。法律の解釈については、裁判官が行うとされていますから(6条2項1号)、法律について詳しく知らなければならないというわけではありません。評議は多数決ですが、裁判官・裁判員とも最低1人ずつが多数意見に含まれなければならないとされています(67条1項)。

 なお、裁判員(候補者)になった場合、日当や交通費のほか、宿泊を要する場合は宿泊費が支払われます。具体的な金額は未定ですが、刑事事件の証人の場合、日当が8,000円以内、宿泊費が8,700円以内とされているので、これが目安になると思われます。

裁判員になるのを断ることはできる?

 「裁判には関心がない」「的確に判断する能力がない」「裁判や法律について知らない」といった理由では、裁判員になることを辞退することはできません。ただし、

  1. 70歳以上の人(16条1号)
  2. 学生または生徒(16条3号)
  3. 過去5年以内に裁判員または補充裁判員となったことがある人(16条4号)

などは、裁判員になることを辞退することができます。
 また、

  1. 重い疾病や傷害により裁判所に出頭することが困難な人
  2. 介護または養育がなければ日常生活を営むのに支障がある同居の親族の介護または養育を行う必要がある人
  3. その従事する事業における重要な用務であって自らがこれを処理しなければ当該事業に著しい損害が生じるおそれがあるものがある人
  4. 父母の葬式への出席その他の社会生活上の重要な用務であって他の期日に行うことができないものがある人

であって、裁判員等選任手続の期日に出頭することができない人も辞退することができます(16条7号)。

 16条7号による辞退がどの程度認められるか、現時点でははっきりしませんが、国民全員で司法制度を支えるという裁判員制度の趣旨からすれば、よほどの事情がなければ認められないものと思われます。なお、裁判員法では明確にされていませんが、憲法で保障されている思想・良心の自由、信教の自由との関係で、これらに基づいて裁判員になることを拒否することは可能と考えられており、政令で辞退事由に加えられる見込みです。

 なお、裁判員候補者や裁判員が、正当な理由なく出頭に応じない場合には、10万円以下の過料が課されることになっています(83条)。

裁判員になるのは何人に1人?

 最終的に裁判員に選ばれるまでには、まず、その候補者に選ばれ、この候補者の中からさらに事件ごとにその事件の裁判員候補者が選ばれることになります。その際に、被告人や被害者と関係がないかどうか、不公平な裁判をするおそれがないかどうか、などが確認され、最終的に裁判員が選ばれます。また、これとは別に、裁判員に事故が起きたときに備えて、補充裁判員が置かれることがあります。この補充裁判員は、最終的な有罪・無罪の評決に参加することはできませんが、裁判員と同様に、審理に出席し、裁判員が欠けた場合にはその代わりに評決に参加することになります。

 おそらく、裁判に関心のない人にとって気になるのは、どのくらいの確率で裁判に行かなければならないか、だと思います。しかし、詳細がまだ決まっていないため、具体的な数字は挙げにくいのです。
 というのも、対象となる事件1件につき、裁判員が6名ということは裁判員法で規定されていますが、候補者の人数を何人にするか、補助裁判員の数を何人にするかについてはまだ決められていないからです(補助裁判員の数については、裁判員の数を超えないということだけ決まっています・裁判員法10条1項)。
 平成15年の統計をもとに、対象事件1件につき50人の候補者を選出すると仮定すると、毎年662人に1人(0.15%)が裁判員の候補になることになります。そして、補充裁判員の人数を3人と仮定すると、実際に裁判に出席しなければならないのは、3,677人に1人(0.03%)という計算になります。これだけみると、ずいぶん少なく思われるかもしれませんが、制度がスタートする年に20歳の人が、裁判員になるのを辞退できる70歳までの50年間に裁判員になる可能性を計算すると、13人に1人(7.6%)は候補者になり、74人に1人(1.4%)は裁判員または補充裁判員となることになります。

多くの努力が必要とされる制度

 裁判員制度の導入が、「社会秩序や治安、あるいは犯罪の被害や人権といった問題について、それぞれの国民にもかかわりのある問題としてお考えいただく契機にもなる」(平成16年4月2日の衆議院法務委員会での野沢法務大臣(当時)の答弁)という、裁判員制度導入の意義については、あえて反対する人は少ないと思います。
 しかし、裁判員制度の理念を実現するためには、法律では解決のできない、多くの努力が必要とされます。

 まず、上にも述べたように、裁判員になることは、原則として辞退できません。サラリーマンであっても、自営業者であっても、あるいは主婦であっても同じです。そして、その間の私生活上の不都合は原則として自分で解決せざるを得ません。
 確かに、日当が支給され(11条)、労働者が裁判員になったことに伴い休暇を取得したことを理由に、使用者が解雇等の不利益取扱いをすることは法律で禁止されています(71条)。しかし、この「裁判員休暇」について、国家から補償が受けられるわけではありませんから、このことによる経済的損失は個人か企業(休暇を有給とする場合)が負わなければならないことになります。自営業者の場合、裁判員の職務にあたっている間は仕事から離れることになり、その影響はより深刻です。育児や介護をしている主婦は、辞退することができますが(16条7号ロ)、すすんで裁判員になろうとする場合、育児や介護を代わってくれる制度が用意されているわけではありません。既存の制度を利用することは可能にしても、負担が全くないということはないでしょう。

 また、裁判員として拘束される期間があらかじめわからないという問題もあります。裁判員制度導入に伴う刑事訴訟法の改正によって、審理に2日以上を要する事件については、連日開廷し、継続して審理を行わなければならない(刑事訴訟法281条の6)とされ、従来のように、弁護人や検察官の都合で審理が遅延することはなくなるとみられていますが、これについても「できる限り」とされており、必ずそうなるとは限りません。また、審理の回数は事件の難易によって異なるため、審理を進めるまでわからないのが通常です。なお、裁判員制度の対象となる事件の開廷回数は、3回以内が全体の4割を占めるものの、平均は5.7回となっており(平成15年)、このまま開廷回数が減らなければ、1週間以上裁判員として拘束されることになります(裁判所は土日祝日が休みです)。

 上にも述べたように、裁判員制度は、裁判に国民が直接関与できるようにすることで、司法の世界に国民のコントロールを及ぼすとともに、司法的判断を国民の感覚に近づけるために導入されるものですが、他方でそれは、これまで訓練を積んだ裁判官に任せてきた証拠の評価や有罪・無罪の認定、量刑といった高度な判断を国民自身が行わなければならないということになります。つまり、これまで以上に個々の国民が主体的に参加することが求められることになるのです。投票率が50%を切るような状況で、より手間がかかり、複雑な判断を要求される裁判員制度を定着させるには、国民の意識をいかに変えていけるかにかかっているといえそうです。

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