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ある弁護士の獄中体験記 元弁護士 山本 至

第21回 運動時間

 前回、別棟1階にユニットバスがあると書いたが、その別棟を抜けると運動場がある。

 運動は休日を除いて毎日行われる。規則には休日と入浴日を除いて実施されるとあったが、入浴日である火曜日と金曜日にも運動があった。いいことである。警察での運動と違ってタバコはないし、戸外での、開始から終了までの正味30分の運動である。

 運動のときにはごみ箱を持って出て分別に従ってごみを捨て、その場にごみ箱を置いていく(帰りに持ち帰る)。ごみの内容で多いのは、カップ麺のカップである。自費で購入して夜食に食べるのだろう。また、お菓子の空き袋もかなりの数である。

 1階のユニットバス風呂場の先の出入り口近くに、爪切りの入った木箱が置いてある。木箱の中は区分けされていて、そこに一つずつ爪切りが入っており、それぞれに番号が付いている。誰に何番の爪切りを貸与したかを刑務官が控えておくのだ。その木箱を、大体先頭の者が持って出て、刑務官に渡す。「おっありがとう」と言う刑務官もいれば、何も言わずに黙って受け取るだけの刑務官もいる。

 出入口を出ると、塀に囲まれた運動場に出る。塀の向こうは山林で緑が目に眩しい。未決の運動場は二つに分かれている。一つは100メートルトラックをとることができる程度の大きさの運動場、もう一つは独居用の運動場である。

 雑居用の運動場では、幾人かが談笑しながらキャッチボールなどをしている様子が伝わってくる。独居用のそれとの間には、ちょうど人の目の高さまでが隠れるようなフェンスがあり、お互いの状況を目視することはできないが、雑居の声は聞こえてくる。

 雑居の楽しそうな声を聞きながらの独居者の運動ほど寂しいものはない。独居のそれは、台形の上下を引っ繰り返して長い上辺を曲線にした造りで(みかんを横に切って断面を見たときのそれぞれの房のような形)、出入り口側の下辺の長さは2メートル弱、上辺曲線は2メートル強程度、下辺から上辺までの奥行は3メートル強ほどであってかなり狭い。隣とは、2メートルくらいの高さのコンクリート塀で仕切られている。とてもじゃないが、走ることなどできないから、うろうろと歩き回るしかない。まさに檻の中の動物である。それでも、外気を吸うことができ太陽の光を浴びることができるのはうれしいことである。

 運動も入浴と同じで、「あと10分」とか「あと5分」という刑務官の声が響く。それぞれ30分が終了した順番に出ていく。3人ほどがまとまって出ていく。建物に入る前に、サンダルについた砂などをよく落とさなければならない。たまには、刑務官の隙を見て、話し合う人もいる。話す相手もいないし、怒られると思うと、私にはできなかった。ところが、2回目の拘置所生活では、慣れてしまったのか、結構話をしたが、刑務官はさほどうるさくなかった。

 帰りぎわに、出るときに置いたごみ箱を持って帰る。たまに忘れてしまい、部屋に戻ってから、「ごみ箱忘れました」と刑務官に言って、鍵を開けてもらって、再度出て持ってくるということもあった。中にはしょっちゅう忘れる者もいて、刑務官に「またか」と言われていた。(つづく)

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