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ある弁護士の獄中体験記 元弁護士 山本 至

第4回 留置場の朝

 警察署の留置場は、いわゆる代用監獄と呼ばれている施設である。本来は留置されている者(いわゆる逮捕から2泊3日)を収容するのが留置場であり、その後勾留された者を収容する施設は拘置所であるが、拘置所の数及び収用人員の関係から、留置場が拘置所の代替施設となっている。これを代用監獄といい、種々の問題点が指摘されているが、入っている者からすれば、拘置所よりも代用監獄の方がいいと言う者も少なくない。

 私は、宮崎北警察署しか知らないので、他の留置場での生活がどのようなものかは分からないし、私の体験した生活とは異なるような内容の本なども出ているが、ここではあくまでも当時の宮崎北警察署の留置場における私の体験であることを前提に話をすすめていく。

 所持物品の検査の際に言われた「日限表」とは一日の予定表であると前に書いたが、部屋の前にある時計の下に貼ってある日限表には、具体的には、次のとおりの記載がある。
 起床時間は7時、同10分に洗面、同40分に朝食、その後随時に運動となる。午後は12時に昼食、夕方17時30分に夕食、そして21時に就寝となる。

 朝は6時30分ころから留置係担当者が行ったり来たりして、また、メガネを預けていた人(就寝時間前にメガネが回収されている)にメガネを渡すために、鉄格子に取り付けられた小さい扉を開いて棚を作り、その棚にメガネを置いていったりするので、そろそろ起床時間だなと分かる。
 7時ジャストに全面的に電灯がつき、ラジオが流れ出す。直ちに起き上がって、すばやく敷布団を二つ折りにして、その中に枕を入れて呼ばれるまで待機する。掛け布団代わりの毛布は日中の昼寝に使用するので、置いたままである。
 「1号室」と呼ばれると、あらかじめ決めてある順に、各自が自分の布団をもって布団をしまう専用のロッカーに入れていく。1号室のすべての人がしまい終わると、その上に「1」と書かれた厚紙を置く。これによって、どれが誰の布団かが分かる仕組みとなっている。部屋に戻る際に、洗面所横にある水入りバケツと雑巾2枚を持つ。部屋に戻るとすぐに鍵が掛けられるのは当然か。持ってきた雑巾のうち1枚の雑巾には赤い印がつけられており、これがトイレ掃除用の雑巾となる。

 ここから洗面の時間まで雑巾がけをすることになるが、2人部屋の場合、トイレ掃除と部屋掃除を毎日交代で行い、3人部屋の場合、順繰りに1人が休憩となる。すべての掃除が終わると、バケツの水をトイレに流し、洗面に呼ばれるまでやはり待機することになるが、必ずしも部屋順に呼ばれるのではなく(別部屋に入れられている関係者と鉢合わせしないようにとか、後で書く官本借り出しの順とかの都合で)、何らかのルール性をもって順番が回ってくるのである。洗面の呼び出しがあると、バケツと雑巾を持って部屋を出て、これらを所定の位置に片付けて洗面となる。隣の部屋に入っていたヤクザ屋さんは、洗面の後、毎日頭に水をつけて寝ぐせを直していた。女性に見られるわけでもないのに。

 洗面が終わると、官本が収納されている本棚に向かうのだが、本棚は、1~4号室用の100冊程度が収納されているものと、5~11号室用の200冊程度が収納されているものとがある。1か月に一度、それぞれの本の移動が行われている。また、差し入れてもらった本や雑誌は、その人が所有権の放棄をする手続きをとることによって、官本となるから、かなりの本数があり、読書に不自由することはない。

 取調べがない者、つまり既に起訴されている者は、一日中暇を持て余しているから、読書三昧に耽ることとなる。だから、ほとんどの人が本を借りることとなり、本棚の前は盛況となる。(つづく)

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