トップページ > 小説で読むおもしろい判例 > 父と娘の物語 ― ある親殺し 第一回
小説で読むおもしろい判例 2008年8月 5日 更新
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神村 春生
夫:37歳、会社員。某私立大法学部卒。
妻:35歳、会計事務所職員。
| 妻 | (新聞を読みながら)見て見て、またヒッキー(*注1)がお父さんを殺してる!― 最近、家族同士の殺人事件が多いと思わない?
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| 夫 | そういえば、祖父さんが息子一家皆殺しにしたなんてのもあったな。元気だよなぁ。
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| 妻 | 不謹慎なこといわないでよ。・・・親が息子を殺すなんて、きっとよほどの事情があったのよ。でも、子どもが親を殺すのは許せないわ。
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| 夫 | どうして? ひどいのはどっちも同じじゃないの?
最近、通り魔とかの無差別殺人もよく起きるじゃないか。これは逆に、会ったこともない他人を殺すわけだろ、「誰でもよかった」とか言ってさ。こっちのほうが悪質とも言えるじゃないか。
刑法では「人を殺した者は」(*注2)となっていて、被害者が親であろうが子どもであろうが、アカの他人であろうが、関係ないんだよ。
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| 妻 | そんなのおかしいわ。自分を生んでくれて、一所懸命育ててくれた親を殺すなんて、・・・そんな不恩義、人として許せないわよ。絶対、死刑にすべきなのよ!
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| 夫 | (呆れて)古いんだよなー。以前はね、親を殺したら死刑か無期懲役しかなかったんだよ(*注3)。それだと、情状酌量で精一杯減刑しても執行猶予がつけられないから、実刑で、即、刑務所に行くしかないの(*注4)。
だけど、殺されて当然の親だっているんだぜ。親殺しだからって重罪になるなんて、その方が理不尽じゃないか。だから、ある事件をきっかけに改正されたんだよ。
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| 妻 | 何よ、その事件って。
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| 夫 | ひどい親父がいてさ、娘に子どもを5人も産ませて・・・
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| 妻 | エー?!
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| 夫 | そのうち娘が出て行きたいって言ったら逆上しちゃってさ、10日間も監禁して虐待したんだよ。
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| 妻 | それって地獄よねー。で、どうなったの? そのまま娘を殺しちゃったの?
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| 夫 | 逆だよ。思い余った娘が、親父を殺しちゃったんだよ。
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| 妻 | 何も殺さなくたって・・・説得するとか逃げるとか警察を呼ぶとか、できなかったの?
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| 夫 | そんな当たり前のことが通る親父なら、こんな事件にならないよ。
結局、親も子どもも同じ人間なんだから、親が子どもを殺した場合も、子どもが親を殺した場合も、同じように扱われるべきだろ。それが一人の人間として、同じように尊重されるってことなんだよ(*注5)。
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| 妻 | でも・・・やっぱりだめよ。親だもん。親を殺すのと、他人を殺すのは違うと思うわ。 |
(続く)
| 目次 | 「父と娘の物語」 第二回 »
集計期間: 2008年8月31日-9月6日