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裁判員のための一口判例解説 2010年7月30日 更新
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~最高裁昭和59年2月29日第二小法廷決定~
刑事訴訟では、物的証拠のほか供述証拠も重要な証明手段。
捜査機関は、供述証拠を集めるためにしばしば任意で被疑者を取調べます。
任意といえど、身体を拘束して自由を制限するのですから、その方法も問題となります。社会通念上相当で、許容範囲内でなければなりません。
もしも許容範囲を超えた違法な方法が用いられたのであれば、それによって集められた自白などの証拠は事実認定の資料から排除され、使えなくなります(違法収集証拠排除の法則)。
今回の事案では、宿泊を伴う長時間の取調べがこの「許容範囲内」といえるかが争われました。
昭和52年5月18日、被害者Aが高輪グリーン・マンションの自室で殺害される事件が発生しました。
自ら高輪警察署に出頭した被告人Xに対する容疑が強まり、6月7日早朝から、任意でXを取調べたところ、晩10時になって自白をしたため、宿泊施設の内外に捜査官数名の監視をつけ、同署近くの宿泊施設に宿泊させました。
このとき警察は、Xから旅館に泊めてもらいたい旨を記した答申書の提出を受けています。
これを4夜繰り返し、その間は終日取調べを続け、一旦は自白調書等が作成されました。
しかし、11日には否認に転じたため、証拠の決め手に欠けるとして逮捕は見送られます。Xは、その後の捜査により、同年8月23日に逮捕されました。
捜査段階における最終的なXの供述は、自白を維持した状態でした。
本件には犯行の目撃者や決定的な物的証拠がなく、Xの自白がほとんど唯一の証拠という状態だったため、これが証拠として信用性があり、有効に使えるのかという点が裁判の要になりました。
この判断に際して、「自白を獲得した任意捜査の方法が許容範囲内か?」ということが問われたわけです。
1審は、Xの自白を信用できる有効なものと認め、Xに殺人罪を成立させました。
2審もこれを是認して控訴を棄却したため、Xは、「自白は違法な取調べによるもので採用されるべきではない」と主張し、上告しました。
最高裁は上告を棄却。
警察の行った任意捜査が社会通念上相当な方法・態様・限度であるかを判断する基準として、事案の性質や被疑者に対する容疑の程度、被疑者の態度など、諸般の事情を勘案すると示しました。
そのうえで、Xを帰宅させられない特段の事情もないのに、4夜にわたりホテル等に宿泊させた上、連日同警察署に出頭させ、午前中から夜間に至るまで長時間取調べた捜査方法に関して、必ずしも妥当とはいい難いと苦言を呈しました。
しかし、Xは答申書も提出していて宿泊を伴う取調べに任意に応じており、その態度に問題はなく、事案の性質上も速やかにXから詳細な事情や弁解を聴取する必要があったことから、本件の具体的状況のもとにおいては、任意捜査の限界を超えた違法なものとまでいうことはできないとしました。諸般の事情から、社会通念上相当で「許容範囲内」であると結論付けたのです。
なお、担当裁判官2名については、逮捕以降の自白の信用性や有効性を肯定して有罪の結論を支持しているものの、任意捜査としてその手段・方法が著しく不当で、許容範囲を越える違法なものであると意見しています。
このあたりの評価は、各裁判官によって分かれるようです。
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