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相続編(後編)

5.相続財産の範囲

1) 相続の対象となる財産は何かについて(以下で、単に○○条とある場合は、民法の条文です)。

 相続人は被相続人の死亡により被相続人が有していた、いっさいの財産上の権利義務を承継します(896条)。
 これは相続人が相続開始の事実を知っているか否かにかかわらず当然に生じます。

2) 相続の対象となる「財産上の権利義務」の具体例としては以下のようなものがあります。

プラスの財産

  • 現金、預貯金
  • 土地、建物などの不動産
  • 農地、山林
  • 自動車、宝石類
  • 株式、貸金、売掛金
  • 特許権、商標権、著作権
  • 電話加入権
  • 賃貸人たる地位(土地・建物)、賃借人たる地位(土地・建物)
  • 慰謝料請求権(争いがあったが判例で認められています)

マイナスの財産

  • 現金、預貯金

3) もっとも以下のものは相続財産の対象から除かれます。

  • 被相続人しか持つことができない権利義務(例:扶養請求権など)(896条但書)
  • 系図、祖先を祭るもの、墓地などの権利(897条
  • (受取人が指定されている)生命保険金
  • (受取人が指定されている)死亡退職による退職金請求権(判例)

6.単純承認・相続放棄・限定承認について

1) 単純承認について

 単純承認とは、被相続人の相続財産を無制限に相続する制度です。
 相続人は、被相続人のプラスの財産もマイナスの財産も、承継します(共同相続人があれば法定相続分に応じて承継する)。
 単純承認するための法律的な手続は不要です。

 また、以下の行為によって、単純承認したとみなされます(法定単純承認)(921条)。

  • 相続人が相続財産の全部または一部を処分したとき(同条1号)
     相続財産を処分したなら相続人は相続財産を受け取るという意思をしたとみなされるのです。
     具体的には、相続人が相続財産の土地を売却するなどの行為をした場合には、単純承認したとみなされ、もはや相続放棄や限定承認はできなくなります。

     ただし、相続開始があったことを知らずに相続財産を処分した場合は、単純承認の効果は生じないとされています(判例)。
  • 相続人が期間内(放棄または承認をなしうる3ヶ月以内)に相続放棄や限定承認をしなかったとき(同条2号)
     相続放棄と限定承認については後で詳しく解説します。
  • 相続人が相続放棄や限定承認をした後でも、相続財産の全部もしくは一部を隠匿し、消費し、又は悪意で財産目録を記載しなかったとき(同条3号)

     限定承認の場合には、家庭裁判所に提出する添付書類の一つとして財産目録を作成して提出することが要求されています(924条)。
     限定承認をした相続人が相続財産を隠匿する意思で財産を財産目録に記載しなかった場合には、「悪意で財産目録を記載しなかった」ことに該当します。

2) 相続放棄について

 相続放棄とは、一切の相続財産の承継を拒否する制度です。

 被相続人の財産に借金が多くて返済できないため放棄したい、財産はいらないという場合には、相続放棄をします。

 相続放棄は、自分のために相続の開始があったことを知ったときから3ヶ月以内に行うことが必要です(915条1項)。
 もっとも相続人が未成年者の場合は、この3ヶ月の期間は親権者など法定代理人が未成年者のために相続開始があったことを知った時から起算します(917条)。

 そして相続放棄をするためには、上記の期間内に相続開始地の家庭裁判所に対し、申述することが必要です(938条)。
 要するに、借金を相続したくないと考えても、期間内に裁判所に対する申述という手続をとらなければ、効力は生じないのです。

 もっとも、財産関係がかなり複雑で、期間内に調査をすることが難しいと考えられる時は、利害関係人又は検察官の請求により、家庭裁判所はこの期間の伸長をすることができます(915条1項但書)。

 相続放棄の効果として、初めから相続人とならなかったとみなされます(939条)。
 さらに前回説明した、第1順位(被相続人の孫、曾孫など)や第3順位(被相続人の甥・姪)に対する代襲相続はないのです。

 一旦相続放棄をしてしまった場合は、これを取消することはできません(919条1項)。
 ただし、相続放棄することに至った原因に錯誤があったとき(95条)や詐欺・強迫(96条)があったときなどの原因がある場合には取消できる場合があります(919条2項)。

3) 限定承認について

 限定承認とは、相続によって得た財産の限度で相続債務や遺贈を弁済するという留保を付けて相続を承認する制度です(922条)。

 相続財産の中に借金があるとわかっていても、正確にはどのくらいなのかよくわからない場合があります。
 相続放棄をした後に、プラスの財産からマイナスの財産を引いてもプラスの財産があったと後日判明しても、もはや後の祭りです。

 このような場合に、限定承認をしておけば、被相続人の財産の限度においてのみ弁済すればよいことになります。
 要するに自分の固有財産(=自分の財布)から返済する義務を負わなくてもよいわけです。

 限定承認は、相続放棄のときと同様3ヶ月以内の期間(915条1項)に家庭裁判所に申述することが必要です(924条)。

 もっとも、共同相続人が数人いる場合は、共同相続人の一部の者だけが限定承認することはできず、共同相続人が全員で限定承認しなければなりません(923条)。

 一旦限定承認すると、相続放棄のところで説明したように錯誤無効、詐欺・強迫などの事由がなければ取消することができません(919条1項・2項)。

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