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医療訴訟上、因果関係の立証はどこまで求められる?

最高裁昭和50年10月24日判決

 患者側が医師の医療ミスを立証しようとすると、専門知識においても証拠物の収集においても圧倒的に不利な立場に立たされます。
実際のところ、患者側はどこまで論を詰めれば医療ミスと結果の因果関係を立証したと言えるのでしょうか?

 昭和30年9月6日、X(当時3歳、原告)は、国(被告)の経営するT大学医学部付属病院小児科に化膿性髄膜炎で入院しました。
Xは、入院当日は非常に重篤な状態でしたが、ルンバール(腰椎部で行う脳脊髄液採取)とペニシリン(静菌・殺菌の薬)注入によって、症状は改善していきました。
事件当日である同月17日は、担当医師Aが学会に出席するため、通常は避けている昼食20分後にルンバールを実施しました。その際、Xがいやがって泣き叫びましたが、Aは馬乗りになってXの体を固定し、何度も穿刺してようやく成功しましたが、この間30分かかっていました。
ところが、その15分ないし20分後、Xは突然嘔吐し、2時間後には激しいけいれんを伴う意識混濁を起こしたのです。種々の治療もむなしく、Xは右半身不全麻痺や言語障害、知的障害、運動障害を発症、後遺症として残りました。

 X側は、Aと、Xの嘔吐後問題なしと判断した担当主任医師Bに対し、治療上・指導上の過失などがあったと主張し、A・Bの雇用主である国を相手に、不法行為に基づく損害賠償を請求しました。
(使用者責任とは、使用人(医師)が業務に関して第三者に与えた損害に対する賠償責任は、原則、使用者(国)にも存在するというもの。民法715条)。

 ちなみに、17日のXの発作の原因が脳出血ならば、その脳出血はルンバールによって引き起こされたものと考えられる状況でした。

 原審は、Xの上記発作の原因が脳出血と化膿性髄膜炎の再燃のどちらか判定しがたいとして因果関係を否定したため、Xが上告。

 これに対し、最高裁は原審判決を破棄し、差戻しました。
その際、最高裁は、訴訟上の因果関係の立証の度合いにつき、一点の疑いも許されない自然科学的証明である必要はないとしました。
すなわち、経験則に照らして全証拠を総合検討したときに、「高い確率で○○の事実が××の結果発生を招いた」と証明できればよく、その確実性は「通常人が疑いを持たない程度に真実だと確信できる」程度であれば十分と示したのです。

 そのうえで、本件は、

  • 医師Bが発作の原因を脳出血と判断して治療を行っており、鑑定意見の1つも脳出血の可能性を指摘していること
  • 脳波所見によれば、病巣は脳実質の左部にあると判断されること(可能性髄膜炎なら脳実質ではなく髄膜や脳脊髄液に病巣があるはず)
  • 本件発作は、Xの病状が一貫して軽快しつつある段階で、ルンバール実施後15~20分で突然に発生した一方、可能性髄膜炎の再燃する可能性は通常低く、これが再燃するような特別の事情もなかったこと

という3点を総合検討し、経験則上、本件発作とその後の病変の発生原因はルンバールによって生じた脳出血と判断。両者の因果関係を肯定しました。
差し戻し審では医師の過失を認め、Xの請求を一部認める判決を下しています。

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