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他人が手を添えて書いた遺言は「自筆」といえる?

東京地裁平成18年12月26日判決

 普通の遺言のうち、証人不要で、最も簡単に作成できるのが「自筆証書遺言」ですが、これは全文を遺言者本人が自筆で記入しなければなりません(民法968条1項)。

 しかし、遺言者本人が重篤な状態にあるときは、誰かに手を添えてもらいつつ書き進めるという可能性もあります。
この場合の「添え手」は、どの程度までなら「自筆」と許されるのでしょうか?

 
被相続人Aは、47歳のときに勤めていた会社を辞め、内妻Yの経営する婦人服デザイン会社の経理担当役員に就きました。
それから20年近くが経過した平成14年10月16日、突然Aは多発性脳梗塞を発症して緊急入院します。
この後、Aは麻痺や高次脳機能障害、失見当識(時間や方向感覚、認識力を失う認知症のような症状)など後遺症のリハビリや、のちに生じた左脳出血、脳室穿破(脳室内への出血)、腎不全の治療のため、転院を繰り返す生活になりました。

 AとYが正式に婚姻届を出したのは平成15年10月7日。
翌年4月25日には、Aは慢性腎不全の悪化により68年の生涯を終えました。
ちなみに、Aに子供はいません。

 平成16年7月5日、Yの申立てにより、Aの遺言書の検認が行われました。

 その内容は、

 「平成15年10月7日  ゆい言書  Aは妻Yへじょうとする  保険  そんぽ  年金  預金  北越BK  山梨中央BK  その他をする」

 というもので、全文手書きで作成されており、Aの氏を刻した印が押されていました。

 これに対し、Aの兄弟3人(原告)は、「Aの自書によるものではない、当時Aには遺言能力(遺言をのこせるだけの意思能力。7歳程度の知能)がなかった」として、遺言の無効を主張し、Yを被告として訴訟を起こしました。

 Yの言い分は、「遺言書の筆跡はAの筆跡である、被告が手を添えてやり時間をかければ何とか字を書けるようになり、この遺言書も、被告が字が曲がらないように手を添えたものの、Aがゆっくり時間をかけ自らの意思で作成したものである」というものでした。

 東京地裁は、Aの生活歴、入通院歴、遺言能力、本件遺言書作成時の状況、本件遺言書の方式違反について、詳細に事実認定をしたうえで、本件遺言書Aの自書と認めず、形式的要件を欠き無効なものと結論付けました(民法960条)。

 その際、遺言作成時の他人の添え手について地裁が示した見解は以下の3点です。

  1. 遺言書作成当時、遺言者Aに自書能力があったとは判断しづらい
  2. Yの添え手が、「単に始筆・改行・字の間配りや行間調整のため、Aの手を用紙の正しい位置に導くだけのものだった」とはいいがたい
    または、「Aが意思通りに手を動かすことができ、Yの支えを借りたのは単に筆記を容易にするためだった」とはいいがたい
  3. 筆跡から、添え手をしたYの意思が介入した形跡がないと判定できない

 自書というには、そのほとんどを本人が「自分の力で書いた」といえる状態が必要であって、添え手は、ごく軽い補助にとどまるべきと考えているようです。
のちにYが控訴しましたが、高裁の判断も同じだったようで、控訴棄却に終わっています。

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