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父親が事故死...胎児に損害賠償請求権はある?

大審院昭和7年10月6日判決

 大正15年3月15日、Aは、鉄道会社Yが経営する鉄道路線の踏切上で、運転手の過失により電車にひかれ、2日後に死亡しました。

 当時Aには事実上の婚姻を交わした同棲中のX1がおり、X1はX2を妊娠していました。

 A死亡当時、X2妊娠中のX1を含めたAの親族一同は、Yへの損害賠償金額の決定・受領に関する交渉をBに一任します。
 BはYとの交渉で、X1がX2を懐胎している点も考慮に加えたうえで、「Yが金1000円を支払うとともに、親族一同は今後Yにいかなる請求もしない」という約定を作成しました。
 これに基づき、Yは、3月20日に金1000円をAの父Cに交付しています。
X1がX2を出産したのは翌4月のことです。

 X1・X2は、Yに対して、それぞれAの死亡に伴って生じた財産的損害賠償および慰謝料を求めて提訴しました。
 原審は、X1・X2はどちらも民法711条所定の関係(法律上の、被害者Aの配偶者・子という関係)にないのでYに損害賠償を請求することができないとして、両者の請求を棄却しました。
 さらに予備的判断として、Aの死亡当時、BがYと交わした約定に言及し、X1・X2は本件訴訟で争われている請求権についてもすでに放棄したはずだと指摘しました。
 これを不服としたX1・X2が上告。

 大審院は一部上告棄却し、一部を破棄差戻しました。

 まず、内妻X1の請求権に関する部分については、原審同様、Yとの和解契約により消滅しているとして棄却しています。

 次に、X2の損害賠償請求権が上記の和解契約により消滅しているかどうかです。

 X2はBとYとの和解交渉時、まだ胎児でした。
 民法は、損害賠償については、不法行為の時点で胎児であった者に対しても「不法行為時すでに生まれていたもの」とみなして損害賠償請求権を認めています。
 しかし、これは、この胎児が出生した時に、不正行為時に遡って「実は胎児の時から請求権を持っていた」と認める主旨であって、出生前から胎児がこの請求権を処分できるという意味のものではありません。
 また、民法上、出生前の胎児の権利を代理して処分するような規定もないため、BがX2を代理して交渉したといえる根拠がなく、B‐Y間の和解契約はX2に対してはなんらの効力もないと示しました。

 X2が請求権を放棄していないとなると、次は、「X2は損害賠償を請求する権利があるのか?」という問題が生じます。

 まず、近親者に対する慰謝料請求(民法711条)については、X2は法律上の子とはいえないため請求権を否定されました。
 (ちなみに、本判決当時、死亡したAとX2の間の法的親子関係を確立する手段がなかったためこのような結論になっていますが、昭和17年の法改正により、死者に対する認知請求が認められています(民法787条但書))

 しかし、大審院は、不法行為による財産的損害の賠償(民法709条)につき、X2の請求権を認めています。
 というのも、X2が、Aとその同居中の内妻X1との間に生まれた者であるとすれば、X2はAの収入により生計を維持することができたはずで、X2はAの死亡によりこの利益を失ったといえるからです。
 大審院は原審に対し、Aが生きていれば享受できたはずのこのX2の利益を保護せよとして、差戻しを命じたのです。

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