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慣習と法律の原則、契約上はどっちが強い?

大審院大正10年6月2日判決

 地域によって賃貸物件の敷金・礼金制度が違うように、慣習には地域性が出るものです。
 契約締結時、自由に決められる部分について自分達で事細かに決定するよりも、いっそその地域の慣習に従って進めてしまおうという人は多いと思われます。

 では、この慣習と法律上の原則が対立する場面では、どちらが、どのような解釈によって優先されるのでしょうか。

 大正6年4月2日、塩釜在住のXは、新潟の会社Yから貨車11両分の肥料用大豆粕を購入しました。
 このうち、1車は即時納入、残りの10車は4月30日に「塩釜レール入」とする契約を結んでいます。

 「塩釜レール入」というのは、まずは売主が商品を塩釜駅に送付する義務を負い、商品が到着するまでは代金を請求できないとする、この地方の商慣習を指しています。

 Yは、履行日になっても大豆粕を積み出しませんでした。
しびれを切らしたXは、6月22日に履行を催告したうえで、契約を解除しました。
 さらに、Yに対し債務不履行に基づく損害賠償請求訴訟を起こしたのです。

 民法533条には、「同時履行の抗弁」という決まりがあります。
これは、一方が商品の引渡、もう一方が代金の引渡というように、契約の当事者双方が債務を負う契約(双務契約)では、相手方が債務を履行するまでは自分も履行を拒めるというものです。

 Yは、Xが代金を支払っていないことを指摘し、この「同時履行の抗弁」によればまだ履行遅滞は生じていないはずだと主張しました。
 そして、「塩釜レール入」という契約文言は、
・代金と商品の引渡場所を定める
・塩釜駅到着時を商品価格確定の標準とする
という意味に過ぎないため、「同時履行の原則」がこの文言により変更されることもないと強調しました。

 原審は、まずは売主が商品を送付するという「塩釜レール入」の商慣習を認定・優先し、同時履行の抗弁を否定してXの損害賠償請求を認めました。

 これに対し、Yは、「このような慣習があったとしても、当事者がこれに従う意思を持っていたこと(民法92条)はXが立証しなければならず、証拠に基づかずにこの意思を認定した原審は不当だ」と反論して上告しました。

 大審院は上告を棄却。
 意思解釈の参考になるような「事実上の慣習」がある場合、法律行為の当事者がその慣習の存在を知りながら特に反対の意思を表示しない状態であれば、この慣習に従う意思があると推定するのが相当であると述べました。
 したがって、「当事者双方に慣習に従う意思があった」と主張する者(本件ではX)は、特にこの事実を立証する必要はないとしたのです。

credit:Don Nunn via photopin cc

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