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体罰と教育的指導の境目は?

最高裁平成21年4月28日判決

 児童を指導するうえで、どう叱るかというのは大変難しい問題です。
 今回紹介する事案では、教員が児童に対して行った叱り方が、体罰か、それとも教育的指導かが問題となりました。

 舞台はB市立小学校の休み時間。年3組の担任を務める教員A(身長167cm)は、廊下でだだをこねる3年生男子をしゃがんでなだめていました。

 廊下を通りかかったX(同校2年生男子、身長約130cm)は、Aと面識がありませんでしたが、Aの背中に覆いかぶさるようにして肩をもみます。
 AはXに離れるように言いましたが、Xが肩をもむのをやめなかったので、上半身をひねってXを振りほどきました。

 さらにXは、そこを通りかかった6年生の女子数人を、同級生の男子1人とともに、じゃれつくように蹴り始めました。
Aはこれも制止し、「このようなことをしてはいけない」とXに注意しました。

 その後Xは、職員室へ向かうAのおしり付近を後ろから2回蹴って逃げ出します。
立腹したAはXを追いかけて捕まえ、Xの胸元の洋服を右手で掴んで壁に押し当て、大声で「もう、すんなよ。」と叱りました。

 Xは、その日の夜10時頃、自宅で大声で泣き始め、母親に「眼鏡の先生から暴力をされた」と訴えました。
Xはその後も夜中に泣き叫び、食欲が低下し、通学にも支障をきたして通院治療を受けるようになりました。
しかしこれらの症状は一過性のもので、徐々に回復し、やがてXは学校でも家でも元気に生活を送れるようになりました。

 この一件について、Xは、教員Aから体罰を受けたと主張して、Y(旧B市)を相手取り、損害賠償請求訴訟を起こしました(国家賠償法1条1項)。
1審・2審とも、教員Aの行為を体罰(学校教育法11条ただし書)と判断し、Xへの損害賠償を命じました。
ちなみに、原審判断の根拠は、

  1. 胸元をつかむという行為は、けんか闘争の際にしばしば見られる不穏当な行為。
    Xを捕まえるためなら、手をつかむなど、より穏当な方法も可能だった。
  2. Xの年齢、XとAの身長差、両者にそれまで面識がなかったことを考えると、Xの被った恐怖心は相当なものと推認される。
    Aの行為は、社会通念に照らし教育的指導の範囲を逸脱するものである。

というものです。

 これを不服としたYが上告したところ、最高裁は、1・2審の判断を覆しました。

 Aの行為は、児童の身体に対する有形力の行使ではあるものの、他人を蹴るというXの一連の悪ふざけについて、今後はそのような悪ふざけをしないようXを指導するために行われたものだとし、これは悪ふざけの罰としてXに肉体的苦痛を与えるために行われたものではないことが明らかだと確認しました。

 確かに、Aも、自分自身も悪ふざけの対象にされ立腹して本件行為を行っており、やや穏当を欠くところがありました。
しかし、Aの行為は、その目的、態様、継続時間等から判断して、教員が児童に対して行うことが許される教育的指導の範囲を逸脱するものではなく、結局は体罰に該当しないと判断したのです。
したがって、Aの行為に違法性はなく、2審のYの敗訴部分を棄却してXの請求を退けました。

credit:Japanese Elementary School / emrank

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