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本人の意思はどこまで通る?―無権代理行為を阻止できるか―

~最高裁平成10年7月17日判決~

 頼まれてもいないのに、本人の代理だと偽って勝手に行った法律行為は「無権代理行為」といいます。
 自分のあずかり知らぬところで効力が生じてしまっては本人が気の毒なので、本人が追認しない限り、その効力が本人に及ぶことはありません(民法113条1項)。
たとえば、子が勝手に親の土地を売ってしまった場合、親本人がそれを追認しなければ土地を失うことはないということです。

 しかし、追認を拒んだ親が死亡して子が「本人」の地位を受け継いだら...?
 果たして、無権代理行為はどのように作用するのでしょうか。

 Aは、有効な意思表示ができない状態にありましたが、ある不動産を所有していました。

 Aの長男Bは、自分の経営する会社の事業のために、Y1~Y4から融資を受けようと、Aに無断で代理人を装い、このAの不動産に根抵当権等を設定したうえ、登記を設定。
さらにBは、Y4との間で、会社のY4に対する債務をAが連帯保証する旨の契約も締結しました。

 その後、長男Bが死亡し、Bの妻Cとその子Xらはプラスの財産の範囲内で債務も相続することにしました。
 つまり、Bの無権代理人という地位を相続したわけです。

 そのうち、Aが禁治産者(現在でいうところの成年被後見人)になり、長男の妻Cが後見人に就任しました。
  その際、Aは、長男Bが生前行った無権代理行為を拒絶するため、代理人Cを通じて、Yらに、各登記の抹消を求める訴訟を提起します。

 ところが、1審係属中にAが死亡したため、Aの孫かつ長男Bの子どもであるXらが代襲相続により本件不動産を取得し、「登記を抹消してくれ」との訴訟を承継することになりました。

 2審は、Xらが長男Bから無権代理人の地位を相続し、次いで、本人Aを相続したことから、無権代理人=本人になったと考えました。
 そして、本人自ら法律行為をしたのと同様の地位または効力が生ずる以上、Xらが「本人だから」と追認拒絶をする余地はなく、無権代理行為は当然に有効となるとして、Xらの請求を棄却したのです。
 これに対し、Xらが上告しました。

 最高裁は原審を破棄し、「本人(A)が無権代理行為の追認を拒んだ場合には、その後に無権代理人が本人を相続したとしても、無権代理行為が有効になることはない」と結論付けました。
 本人が追認を拒めば、無権代理行為の効力は本人に及ばないことが確定します。
 いったん追認を拒絶したら、その後は本人であっても追認によって無権代理行為を有効とすることはできません。
 したがって、追認拒絶後に無権代理人が本人を相続したとしても、追認拒絶の効果が確定してしまっている以上、何の影響も及ぼすことはできないのです。

 最高裁は、さらに、無権代理人が本人を相続するタイミング(追認拒絶の前か後か)で法律効果に違いがでるものの、その結論の差は本人の追認拒絶の有無にあるのだから問題はないと付け加えました。
 また、無権代理人の地位にある者が本人の追認拒絶を主張することも、信義則(信義に従い、誠実に契約を履行すべしとする法原則。民法1条2項)に抵触しないとも確認しています。

credit:lumaxart via photopin cc

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