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緊急避難

 第7回目の今回は、「緊急避難」について説明します。

 乗っていた船が沈没してあなたは海に投げ出されてしまいました。岸までは遠く、泳いでいける距離ではありません。そのとき、浮き輪が1つこちらに流れてきました。周りにはあなたのほかにもう1人。2人が浮き輪につかまったら沈んでしまいます。あなたならどうしますか?

 映画やテレビドラマでは、ヒーローが自分の身を犠牲にして相手を助けたり、2人で生き延びる方法を模索したりしますが、実際にそのような場面に遭遇したら、相手を突き飛ばしてでも自分が助かろうと思う人が多いのではないでしょうか。
  では、相手を突き飛ばすことで助かった人は、相手を水死させたとして殺人罪に問われてしまうのでしょうか?これが「緊急避難」の問題です。

 結論からいうと、上記の例では無罪となります。
  (1)自己又は他人の生命、身体、自由または財産に対する現在の危難を、(2)避けるため、(3)やむを得ずにした行為であって、(4)生じた害が避けようとした害の程度を超えなかった場合には、緊急避難が成立し、罪とならないとされているからです。
  上記の例に当てはめると、岸まで遠く、2人がつかまれば沈んでしまうというのですから、自分1人が浮き輪につかまる以外に自分の命を守る方法がないといえます。そして自分の命を守るために、相手の命を犠牲にすることは、「生じた害が避けようとした害の程度を超えなかった」といえるでしょう。

 しかし、上記のような典型的な緊急避難の例というのは、実際にはほとんどありません。過去の事件で問題となったのは、以下のような事案です。

【ケース1】
住み込みの従業員が胃痙攣で苦しみだしたため、無免許にもかかわらず、その従業員を車に乗せ、約10km離れた病院に連れて行った。近くの病院は医師が不在であると断られ、タクシーも出払っていてすぐに来られない状況だった。
→緊急避難を認めなかった。上記の事情があるとしても、救急車を呼ぶべきであって、無免許運転が従業員を助ける唯一の手段であったとは言い難い。
【ケース2】
乗車時点では異常がなかった娘が急に熱を出し、救急車を呼ぼうとも考えたが、かかりつけの病院が7~8分のところにあったため、最高速度時速50kmの道路を時速88kmで走行した。
過剰避難(緊急避難としての程度を超えている)と認定し、刑を免除した。かかりつけの病院までの距離が車で7~8分程度とさほど遠くないのであるから、許されるスピードで運転すれば足りるのであって、38kmオーバーでの運転は避難行為としての程度を超えている。
【ケース3】
教団の元信者である被告人が母親を奪還しようと教団施設に別の元信者とともに忍び込んだが、発見されてしまった。その後、教祖から一緒に忍び込んだ元信者を殺害すれば被告人を解放するといわれ、元信者を殺害した。当時の状況では、殺害を拒んだとしても被告人がすぐに殺害される危険性はなかったが、拒否し続ければ殺害される危険性はあり、身体は両手に前手錠をかけられた状態だった。
→過剰避難の成立を認めた。上記の状況において、被告人の身柄が解放されるためには元信者を殺害するほかなかったことは認められるが、生じた害(被害者の生命)が避けようとした害(被告人の身体の自由)の程度を超えなかったとはいえない。

 上記のように、通常の感覚では「やむを得ない」と思えるような事案でも、緊急避難が認められることはまれであるといえます。次回は、「故意」について説明します。

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