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未遂罪

 第13回目の今回は、「未遂罪」について説明します。

 日々のニュースでも、殺人未遂などの言葉はよく耳にするので、「殺そうとしたが被害者が亡くならなかった場合が殺人未遂なんだな」ということはイメージが付くと思います。より正確に定義をすると、犯罪にあたる行為を開始したが、結果が発生しなかった場合を「未遂」といいます。

 実は、未遂となった行為のすべてが処罰されるわけではありません。個々の罪ごとに処罰されるかどうかが定められています。例えば、通貨偽造、窃盗、強盗、詐欺、恐喝などは未遂罪が処罰されますが、公務執行妨害、文書偽造、贈収賄、強迫、横領などには未遂罪が規定されておらず、処罰されません。特殊なのは、傷害罪の未遂で、この場合には、暴行罪が成立します。刑法208条1項は、「暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったときは」と定めているためです。

 未遂罪は刑を減軽することができるとされています(裁量的減軽)。これに対して、自己の意思により犯罪を中止したときには、同じ未遂であっても、刑を減軽し、または免除すると規定されており(必要的減軽)、必ず刑が減軽されることになっています。これは、犯罪を途中でやめることに恩恵を与え、思いとどまることを促す狙いがあるとともに、結果が発生しなかったことにより違法性ないし責任の重さが減少するためとされています。
もっとも、過去の裁判例において、犯罪の中止が認められた例はわずかです。

 例えば、殺そうとして首を絞めたが、人が来る気配を感じ、捕まると思って絞めるのをやめた場合や、家屋に放火した後、怖くなり、隣人に「火をつけたからよろしく頼む」と叫んで走り去ったような場合には、犯罪の中止を認めていません。単に自らの意思で止めたというだけでなく、後悔や憐憫、同情などの感情に基づいて中止することを要求するのが、多くの裁判例の立場です。
  また、犯罪にあたる行為を開始した後で、結果が発生しつつあるような場合には、単に中止しただけではなく、結果の発生を積極的に阻止することが必要とされています。つまり、ナイフで人を刺し殺そうとした場合、一撃目が相手にかわされた時点であれば、攻撃を中止するだけで中止と認められますが、一撃目が相手に刺さり、大量に出血しているような場合であれば、攻撃を中止するだけでは足りず、病院に搬送するなどの積極的な救命行為が必要となります。

 次回は、「共犯(共同正犯)」について説明します。

○Q&Aコーナー

Q どこから未遂になるのですか?
A 一般的には「犯罪の結果を発生させるような危険性が認められる行為に着手した時点」とされていますが、具体的な例を挙げると、(1)窃盗の目的で住居侵入し、室内を物色した場合や、(2)車上荒らしの目的で自動車のドアの鍵穴にドライバーを差し込んだ場合には、窃盗の実行の着手があるとして、窃盗未遂罪が成立するとしています。また、女性を姦淫する目的で、(3)自動車に引きずり込もうとした場合や、(4)ホテル内に無理やり連れ込もうとした事例において、強姦未遂罪の成立を認めています。

 万引きの場合、商品をポケットやカバンに隠して店を出るまでは未遂と考えられがちですが、万引きの目的で商品に手を触れた時点で未遂となり、それをポケットやカバンに収めた時点で既遂となります。その時点で商品を自分の支配下に移したといえるからです。つまり、万引きの未遂が成立するとすれば、商品に手を触れたものの、警備員が見ていることに気付いて商品を元に戻した場合や、「やはり悪いことをした」と思って商品を戻した場合に限られます。

もっとも、警備の実務上は、会計を済ませずに店外に出た時点で捕まえることが多いようです。これは、「後でお金を払うつもりだった」と言われたときに、それを覆す証拠を示すことが難しいという事情があるためです。誤って捕まえてしまった時のリスクを考えると、そういった実務の取り扱いもやむを得ないといえるでしょう。

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