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ある弁護士の獄中体験記 元弁護士 山本 至

第12回 独居入室

 前に書いたように、刑務官の誰からも所内生活の説明などまったくないままに、一人の刑務官に連れられて行った先は、トイレ付の待合室みたいな部屋であった。ドアのないトイレが併設された薄暗い小部屋の長椅子に腰かけて待っていると、リトマス試験紙のような紙切れを渡され、小便をかけるように言われる。簡易な尿検査である。

 その後、その向かいにある医務室へと入ると、刑務官からの問診となる。問診というか、拘置所らしい質問といった方が正しいかもしれない。「指はそろっていますか?」「はい」、「刺青はないですか?」「ありません」、「先生だからないですよね。では一応規則となっていますので聞きますが、玉はどうですか?」
 私には意味が分からず「はぁ?」と問い返すと、「陰部に玉を入れてませんか?これも先生だからないでしょ?」「ありません」ときっぱりと返答。別に返答の結果を確認されるわけではない。

 次に、体重及び身長の測定となる。さらに血圧測定も行われた。逮捕前の一時期血圧が高くなり、降圧剤を1週間服用していたのだが、その後落ち着いていたので薬はやめていた。ところが、この日の血圧は、95-178で、驚いた刑務官が奥にいる医師を呼びに行った。医師による2回目の測定も同じ結果だった。
 高血圧の既往歴の説明をしたが、「初めての所で興奮しているのでしょう。とりあえず毎朝測定して様子を見ましょうか」と、私の説明はまったく無視された。確かに初めての拘置所で興奮してはいるけれども、身柄拘束は既に2か月近くなんだから、さほどの興奮ではないと思うのだが。
 翌朝の測定結果は95-190と悪化し、さらにその翌朝も90-170と高い測定値のままであった。それでも何かしてくれるわけではなく、その次の朝からは測定すらなくなってしまった。面倒くさいから私もそのままにしておいた。

 身体検査の後は、いよいよ独居に入る。医務室を出てまっすぐに行くと、ぐるりと高い塀に囲まれた一区画があり、そこの上部に「拘置監」と書かれた入り口がある。刑務所区画、拘置所区画、事務区画の三区画があるのである。拘置監入り口をくぐれば、いよいよ世間から隔離されるのだ。警察での代用監獄も世間からの隔離状態であったが、拘置所となると、ますますその感が強くなる。

 入り口からは20メートルほどの廊下がまっすぐに伸びている。廊下の左側には腰高窓が並び、右側には何かの作業などを行う部屋がいくつか並んでいる。後日、出廷する際の着替えを行ったりする部屋、洗濯などをする部屋だと分かった。
 この小部屋を右に見ながら行くと、小部屋がとぎれた所に階段があり、階段脇には風呂屋の番台みたいな設備があり、そこに刑務官が座っている。その先、つまり廊下の突き当りには、別の頑丈な扉がある。女子房への入り口である。
 刑務官が着席する番台の向かいから、さらに廊下が伸びている。つまり、Tの字を時計回りに90度回転させた形で廊下があり、二つの線の接点に番台があるということになる。Tの字の書き出し部分が女子房入り口である。

 番台の前から伸びている廊下の左側の手前二つの部屋は風呂場で、さらにその先に18室(だと思う)の独居が並んでいる。番台にいる刑務官から見渡すことができるように造られている。廊下の右側には腰高窓が並び(一部は壁)窓の向こうは庭となっていた。風呂場の隣の部屋、つまり番台からもっとも近い独居に入った。

 ところが入室してからわずか1~2分で、部屋を替えるとの指示を受け、自分の荷物も届いていない状態だから、身一つでの転房となった。入室から最短時間での転房記録ではないかと思う。風呂場の隣で、入浴日にはうるさいだろうとの配慮からだった。そのような配慮もしてくれるのかと感心した。(つづく)

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