サイト内検索:

死者の占有

~最高裁昭和41年4月8日第二小法廷判決~

 あなたの持ち物、「自分の物」と言えるのはいつまでだと思いますか。
  その物を事実上支配している間?ではあなたが死んでしまった場合は?
  一般に、人の事実上の支配が及んでいる物を奪って他人の財物所有を侵害する行為は窃盗罪、支配の及んでいない他人の物を獲得する行為は占有離脱物横領罪とされています。
  今回紹介する判例では、加害者が死者の生前の持ち物を盗む行為をどちらの罪と解釈するべきかが争われました。

 昭和38年6月22日夜、仕事を終えたAはトラックを走らせていました。午後10時頃、ふと路傍に目をやると帰宅途中の女性。姦淫しようと企てたAは、「家まで乗せてあげよう」と彼女を言葉巧みに騙し、助手席に同乗させます。そして、トラックは女性の家とは別の方向へ向かいました。Aは嫌がる女性を無理に降ろすと、周囲に全く民家のない草むらに引っ張り込んだのです。女性は当然身体を激しく動かすなどして抵抗しましたが、ついに強姦を免れることはできませんでした。
  さらにAはこの直後、犯行の発覚などを恐れて、女性を殺害することを決意します。仰向けに倒されたままの女性の首を両手で絞め、窒息させて殺害した後、トラックの荷台に積んであった煉瓦鏝で穴を掘り、女性の死体を埋めて犯行の形跡隠蔽をはかりました。その際、女性の腕に腕時計を発見してこれを奪うことを思いつき、もぎ取っています。

 第1・2審ともに、強姦、殺人、死体遺棄のほかに腕時計奪取の点について窃盗罪の成立を認め、被告人を死刑としました。これに対し、弁護人は、本件腕時計に死者の支配はなく、これを奪う行為も占有離脱物横領罪にすぎないとして上告しました。

 最高裁は上告を棄却。
  Aの行為は、女性の殺害後に女性の財物を得ようと考えつき、その場で実行に移したものです。このような時間的に接着した場合には、被害者が生前有していた財物の所持はその死亡直後もなお継続して保護する必要があると最高裁は考えました。一連のAの行為を全体的に見ると、殺害によって財物に対する被害女性の支配を外したのはA自身であり、自己の行為を利用して腕時計を奪い、他人の財物に対する所持を侵害したというべきだから、奪取行為は、占有離脱物横領罪ではなく、窃盗罪にあたると判断しました。

 なお、ここで人が殺されている上に財物が奪われているのになぜ強盗でなく窃盗なのか、と疑問に思われる方もおられるかもしれません。
  強盗が成立するには、暴行・脅迫は「財物を奪う」という目的に向かって用いたことが必要なのです。これは、財物のような経済的価値のために人権を踏みにじる行為を法が特に重く受け止めていることの表れです。
  したがって、今回のように姦淫が目的である場合には強盗罪の適用はありません。

ページトップへ