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不作為の因果関係

~最高裁平成元年12月15日第三小法廷決定~

 「あの時ああしていれば」
  重大な結果が起きれば、何もしなかったという不作為が悔やまれることもあります。
  作為があれば結果が回避できたと言うことができ、不作為と結果との間に因果関係が認められれば、何もしなかっただけといえども結果に対する責任を負わされる場合があります。
  今回の判例では、作為が結果を回避できた程度が因果関係判断のポイントとなりました。

 暴力団幹部である被告人Xは、被害者A(当時13歳)をホテルに連れ込み、午前9時40分頃と午後11時過ぎ頃にAに覚せい剤を注射しました。2度目の注射の後しばらくして、Aに異変が現れます。最初のうちは頭痛、胸苦しさ、吐き気等の症状。翌午前零時半頃には、錯乱状態で唸り声をあげ、Xの問い掛けにも正常な反応ができなくなり、ホテルの窓から飛び降りようとしたり、四つん這いで逃げ回ったりと、異様な挙動に出ます。午前1時40分頃には、荒い呼吸で床に倒れ、もがき苦しむ等、徐々に動作が不活発になっていきました。
  Xは、自分が短時間に2回も覚せい剤を注射したことに加え、同日中に弟分もAに覚せい剤を注射したことを知っていたため、Aの異変が少なくとも3回にわたって注射した覚せい剤の急性症状だと認識していました。そしてAの様子から、すぐにでも病院に運ばなければ死んでしまうかもしれないとの危機感も持っていたのです。
  しかしXは、覚せい剤使用の発覚を恐れ、救急医療の要請などもせず、午前2時15分頃ホテルを立ち去り、Aを室内に放置しました。
  Aは、Xが部屋を出る時点までは痙攣がみられる等生存していましたが、午前4時頃までに覚せい剤による急性心不全で死亡。Xは、保護責任者遺棄致死罪等で起訴されました。
  救急医療と法医学の各専門家の鑑定では、被害者が錯乱状態に陥った時点で救急車を呼んでいれば、十中八九救命できたという結論でした。

 これを受け第1審は、現実の救命可能性が100%だったとはいえず、医療措置を講じていたとしてもAは死亡した疑いが残るとして、Xの不作為とAの死との因果関係を認めずに、保護責任者遺棄罪の成立にとどめました。
  これに対して原審は、同鑑定につき、事実評価の科学的正確性を尊ぶ医学者の立場では100%確実とは断じないのが当然と考え、Aの死との因果関係を認めて、保護責任者遺棄致死罪を成立させました。
  被告人側は事実誤認等を理由に上告しましたが、最高裁はこれを棄却。
  Aが当時13歳と年若く、生命力が旺盛で、特段の疾病がなかったことなどから、被告人が直ちに救急医療を要請していれば十中八九救命が可能だったという原審の認定をもとに、Aの救命は合理的な疑いを超える程度に確実だと考えました。したがって、被告人がこのような措置をとることなく、漫然Aをホテル客室に放置した行為とAが覚せい剤による急性心不全のため死亡した結果との間には、刑法上の因果関係があるとの職権判断を付しました。

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