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偽装心中と殺人罪

最高裁昭和33年11月21日第二小法廷判決

 悲恋に自ら死を選択する2人。
  物語などにもしばしば描かれるこのような場面も、片方に死ぬ気のない場合は、単なる心中、自殺の問題では済まされません。自分も死ぬと欺いて相手を自殺に追いやる行為は、果たして自殺関与罪か、殺人罪か。以下の判例ではその点が争われました。

 Aと料理屋の接客係Kは恋人同士。結婚の約束までする仲でした。
  しかし、ある時期からAは遊興のため多額の借金を抱え、両親にKとの交際を絶つよう迫られます。次第にKが重荷になり始め、別れ話を持ちかけたA。ところが、Kは別れ話に応じないどころか、思いつめた様子で心中したいと言い出しました。
  Aは、Kに釣られて渋々心中の相談には乗ったものの、実行する気などさらさらありませんでした。それにも関わらず、その3日後、Kと山中に赴き、自分の意思とは裏腹に追死するかのように装い、予め買い求めて携帯してきた青化ソーダ致死量をKに与えて飲み込ませ、青化ソーダ中毒に陥らせて死亡させました。

 1審の和歌山地裁田辺支部、2審の大阪高裁は、共にAの行為に殺人罪を成立させました。Kの心中の決意実行は、Kの自殺実行のあと追死するというAの虚言を信じた結果であって、正常な自由意思に基づくものではなく、AはKの命を絶つ手段としてこのような方法をとったに過ぎない、と結論付けたのです。

 弁護人は、さらに殺人罪の成立を争って上告しましたが、最高裁は、以下のように判断し、上告を棄却しました。
  最高裁の判断上、自殺意思は自らの自由な意思に基づいたものであるだけでは足りず、真意であること(意思決定過程における勘違い等の欠陥がないこと)まで必要とされています。これらを満たす場合は自殺関与罪に、満たさない場合は殺人罪と考えるのです。
  したがって、Aが自殺の意思がないという事実を偽って、Kと心中の合意をした結果、KはAの追死を予期して死を決意した今回の事案では、その決意が真意に添わない重大な欠陥のある意思だということは明らかと考えました。そしてこのようにAに追死の意思がないにもかかわらず、Kを欺き、Aの追死を誤信させて自殺させたAの行為は通常の殺人罪に該当すべきものとして、原判示は正当としました。

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