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艦船の破壊

~最高裁昭和55年12月9日第一小法廷決定

 破壊の方法はおおまかに分けて、物質的破壊用法的破壊の2つが考えられます。
  物質的破壊とは、叩き壊す、穴をあけるというように、物自体を損傷するようなものをいいます。用法的破壊とは、物自体を損傷するわけではないものの、実質的にその物を使えなくしてしまうようなものです。
  物質面でも用法面でも欠ければ困るのは当然ですが、刑法上はどちらをもって「破壊」というのでしょうか?事例をもとに少し考えてみることにしましょう。

 被告人Aは、N、Yから、海難事故を装って、N所有の漁船第8よし丸(以下甲)の船体保険金と積荷保険金を騙し取る計画を打ち明けられました。甲を座礁させ、破壊、放棄するというのです。Aは2人に甲の処分を頼まれましたが、実行役は抵抗があり断りました。
  しかしAは、漁船の「沈め屋」の異名を持ち、当時甲の漁労長(漁船で魚場の選定・漁労作業などの指揮をとる者)だったKを適任者とし、自らKを説得するなど、協力を惜しみませんでした。Aはさらに、漁船第8佳栄丸(以下乙)の漁労長Tに甲の乗組員救助にあたらせる計画を練り、実行場所・方法等についても謀議しています。
  甲と乙は日をずらして千島列島沖に向け出航し、3日後の早朝、ウルップ島穴崎海岸の沖合で合流しました。
  さらにその3日後の早朝、Kは、乙のTに対し、甲の機関部に海水が浸入したと称して穴崎海岸に乗り上げると打電し、実行に移します。機関室内に大量の海水を流入させ、機関始動用の圧縮空気を全部放出し、破壊して、甲を航行不能に陥らせたのです。
  一方Tは、乙を甲に接舷させ、甲の乗組員11名全員を乙に移乗させました。Nは、甲の船長に指示して甲を放棄させ、計画通り海難事故を偽装して、釧路漁業保険組合に船体保険の請求手続をし、保険金4539万円に上る財産上不法の利益を得ました。

 第1・2審ともに、Aは実行犯のN等と謀議し、一連の犯罪を共同で実行した(共謀共同正犯)として、艦船覆没・破壊罪刑法126条2項)を成立させました。Aは、事実誤認、量刑不当等に加え、甲の機能効用を一時的に喪失させたものの、物質的破壊には至っていないとして未遂を争い、上告しました。

 最高裁は、上記主張が上告理由にあたらないとして上告を棄却しました。
  艦船破壊罪の既遂認定に際しては、Aらが、人の現在する甲の船底部約3分の1を厳寒の海岸砂利原に乗り上げさせて座礁させた上、船内に大量の海水を取り入れ、自力離礁を不可能にして航行能力を失わせた点に着目しました。ここから、船体自体に破損が生じていなくても、刑法126条2項にいう艦船の『破壊』にあたると認めるのが相当であるとしています。これを示す補足意見は、次のような趣旨です。
  艦船の航行能力を失わせる行為は、それが船体の物理的・物質的損傷によるものでなくても、艦船の「破壊」にあたると考えます。艦船覆没罪は不特定多数人の生命・身体・財産の安全を保護するもの(公共危険罪)であり、覆没・破壊は艦船に現在する人の生命・身体に対する危険の発生を伴う行為であるため、その客体は「人の現在する艦船」です。本件の事実関係のもとでは、このような要件が充たされているので、艦船破壊の既遂罪が成立します。

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