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防衛の意思と攻撃の意思

~最高裁昭和50年11月28日第三小法廷判決~

 急に危ない目にあえば、身を守ろうと思わず反撃してしまうもの。
  こんな状況を保護するため、刑法36条で正当防衛を認めています。
  正当防衛とは、(1)違法な侵害行為が現に存在しているか又は間近に迫っている場合に、(2)自己又は他人の権利を(3)防衛する目的とその意思をもって、(4)やむを得ずにした必要最小限度の行為は、罰しないというものです(刑法36条1項)。
  必要最小限といえない、(4)の程度を越えた行為も、過剰防衛として、情状面での刑の減軽又は免除が認められています(同36条2項)。
  今回の事案では、相手に対する攻撃の意思が存在する場合、(3)の防衛の意思が否定されるかが争われました。

 被告人Xと友人Yはドライブ中に、花火を楽しむ3人(A、B、C)を見つけ、そのうちの1人を友人と間違えて声をかけました。2人は謝罪しましたが、「すみませんですむと思うか」「海に放り込んでやろうか」などとAらに因縁を付けられ、酒などを奢るよう強要されたばかりか、彼らを車で送り届ける役目まで負うことに。

 

 しかし、Aらの横暴はこれだけでは終わりません。下車した途端、Aらは一斉にYに飛びかかり、無抵抗のYに対し、顔面・腹部等に殴る蹴るの執拗な暴行を加えたのです。Xは「このまま放置しておけば、Yの命が危ない」と思い、なんとかYを救出しようと、自宅に駆け戻りました。実弟所有の散弾銃に実弾4発を装填し、安全装置を外して、予備実包1発も胸ポケットに入れ、再び現場へ。しかし、既にYもAらも見当たりませんでした。
  「Yがどこかへ拉致された!」とっさにそう考えたXは、必死に付近を捜索し、路上で見つけたAの妻からAの所在を聞き出そうと腕を引っ張りました。しかし、同女が叫び声をあげ、これを聞いて駆けつけたAが「このやろう、殺してやる」といってXを追いかけてきたため、Xは「近寄るな」と叫び走り出します。ところが、追いつかれそうな危機感から、Aが死ぬかもしれないとの認識を持ちつつも、振り向きざま発砲し、散弾をAの左股付近に命中させ、加療約4ヶ月を要する重症を負わせました。

 

 第1審は過剰防衛の成立を認定。一方、原審は、Aに「殺してやる」と追いかけられた局面に限れば防衛行為のように見えても、散弾銃を持ち出して発砲するまでの状況を総合的に考察すると、XはAに対抗的な攻撃の意思を抱いており、自己の権利防衛のためにしたものではないと考え、正当防衛の条件を満たさないと判断し、過剰防衛の成立を否定しました。X側はこれを事実誤認として上告しました。

 

 最高裁は原判決を破棄し、本件を名古屋高裁に差戻しました。
  防衛に名を借りて、侵害者に対し積極的に攻撃を加える行為は、防衛の意思を欠き、正当防衛と認められません。しかし、防衛の意思と攻撃の意思とが併存している場合は、防衛の意思を含んでいる以上、正当防衛と評価するべきであると考えたのです。
  したがって、侵害者(本件ではA)に対する攻撃の意思があったことを理由に、防衛の意思を否定した原審の判決は、刑法36条の解釈を誤っていると断じました。

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