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被害者の同意

~最高裁昭和55年11月13日第二小法廷決定~

 いいから殴ってくれ、と言われたので殴ったところ、「傷害罪だ!」なんて言われてしまったら...あなたならどう感じますか?
  自分が殴れと言ったんじゃないか、傷害罪なんて馬鹿げている、と思いますよね。
  刑法上も、殴ってくれと言われたので殴った、というような、被害者の同意がある場合は、基本的にはその加害行為に違法性はなくなります。これは、法益(法が守るべき利益。この例では身体)の主体(つまり被害者)が、自由な意思に基づいて法益侵害に同意・承諾を与えているのだから、当該法益はもう保護しなくて良い、当該法益を侵害する犯罪は成立しない、と考えるからです。
  しかし、被害者が同意を与えた目的が違法、もしくは非倫理的なものだったとしたら?
  刑法はそんな同意でも有効なものとして認めるべきなのでしょうか。今回の事案では、この点が争われました。

 被告人Xは、Aほか2名(以下Aら)とともに、交通事故を装って保険金(入院給付金)を騙し取ろうと、Aらが乗車するライトバンに自分の運転する自動車を追突させる計画を立てました。本物の事故に見せかけるため、無関係のBが運転する自動車を間に入れて玉突き事故を起こすことを企て、Xは自分の車を故意にBの車両に追突させ、その勢いで前に押し出されたBの車両がA運転のライトバンに追突。計画通り玉突き事故が発生し、これによってAらとBは負傷しました。
  Xは上記4名に対する業務上過失傷害罪の有罪判決を受け、一旦、同判決は確定しました。
  しかしその後、XはAらと保険金詐欺行為について詐欺罪の有罪判決を受け、計画を伏せるメリットがなくなったために、「事故による傷害については、被害者であるAらが傷害を負うことに同意していたのだから、この3名に対する傷害罪は成立しない」と主張して、再審を請求したのです。
  この請求を棄却した原々審決定(岡山地裁津山支部)、原審決定(広島高裁岡山支部)に対する特別抗告事件において、最高裁第二小法廷は、この抗告を棄却しました。
  最高裁は、まず、被害者が身体傷害を承諾した場合に傷害罪が成立するか否かは、単に承諾が存在するという事実だけでなく、この承諾を得た動機、目的、身体傷害の手段、方法、損傷の部位、程度など諸般の事実を照らし合わせて決すべきものであると示しました。
  その上で、本件のように、過失による自動車追突事故であるかのように装い、保険金を騙し取る目的で、被害者の承諾を得て、故意に自己の運転する自動車を衝突させて傷害を負わせた場合には、この承諾は、保険金を騙し取るという違法な目的に利用するために得られた違法なものであるから、これによって当該傷害行為の違法性を阻却すると考えるべきではないと判断しました。

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