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遺棄行為の客体

~最高裁昭和60年12月10日決定~

 飲みすぎて、もはや正気を失っている人。
 深夜ともなると、繁華街にはそんな姿がちらほら...
 介抱するのは大変ですが、放置すれば場合によって大変なことになるかもしれません。

 保護責任者遺棄罪刑法218条)は「老年者、幼少者、身体障害者又は病者」を保護する責任のある者が、こうした人々を遺棄する行為や、その生存に必要な保護をしない行為を罰しています。この規定で保護される人は、上に挙げられた者でなくてはなりません。
 今回紹介する事例では、このうち「病者」の意義が問題となりました。単なる酩酊者(ひどく酒に酔った者)は「病者」といえないのが普通でも、泥酔者(高度の酩酊。正体を失うほど酒に酔った者)は「病者」にあたるのではないかというのです。

 泥酔者はお酒の影響で一時的に生理的機能障害(外形上は支障ないが、生理機能に障害が生じている状態)を起こしている状態を指すもの。果たして裁判所は、泥酔者を「病者」と認めるのでしょうか?

 ある1月の真夜中のことです。
 被告人Xは、駅前で酔いつぶれ、正体がなくなっている状態の愛人Aを発見しました。A宅に連れて帰ろうとしましたが、Aは路上に座り込み、動こうとしません。Xは、酔いを醒まさせるために衣服を順次剥ぎ取りながら引き摺って行くことにしました。
  しかし、Aは全裸になっても歩こうとしないのです。Xは、ついにAを田んぼの中に放置し、自分だけ帰宅しました。寒い時期であったことから、Aはそのまま凍死しました。

 1審および原判決は、根拠は明らかにしなかったものの、Xに対し保護責任のあることを認め、泥酔者も「病者」にあたるとして保護責任者遺棄罪の成立を認定。さらに、それによる保護責任者遺棄致死罪刑法219条)を適用しました。
 弁護人は、酩酊者は学問的には「急性酒精中毒患者」なので病理的疾患があるとした上で、218条の「病者」は医学的に病理的疾患のあるもの全てを指すわけではないとし、まして一時的・生理的機能障害である酩酊者を「病者」に含めることは社会通念上認められないと主張、上告しました。
 最高裁は、Aが当時、高度の酩酊(=泥酔状態)により身体の自由を失い、他人の扶助を要する状態にあったと認められるときは、これを刑法218条の病者にあたると判断した原判決は相当であると判断しました。Xには原判決どおり、保護責任者遺棄致死罪が成立したのです。

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