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安否を憂慮する者(身代金目的拐取罪)

~最高裁第二小法廷昭和62年3月24日決定~

 「身近な人が誘拐された!」
  こんな状況に置かれた者は、被害者救出のためあらゆる手を尽くそうとします。
  こんな心情につけこんで財物を奪おうとする行為を、身代金目的拐取罪刑法225条の2)は、「近親その他略取され又は誘拐された者の安否を憂慮する者」の憂慮(心配)を利用し、財物を交付させる目的で人を拐取(誘拐)する行為(第1項)、それらの者の憂慮を利用して財物を交付させ、要求する行為(第2項)として処罰しています。
  今回の事例では、この「近親その他被拐取者の安否を憂慮する者」の意義が問題となりました。

 被告人Xは、S相互銀行に対してかねてより預金返還請求を交渉していた人物です。
  しかし、自ら経営する金融業の資金や生活費に困り、同銀行の代表取締役社長A(当時65歳)を人質にとって、同銀行幹部に身代金3億円を渡させる計画を立てました。
  Yら3名と共謀して改造ピストル、自動車、手錠等を準備し、昭和59年12月17日午前8時45分ごろ、久留米市の路上で、社長車で通りかかったAを、運転手とともに略取してホテルの一室に連れ込みました。
  そこからAに「事情は後で話すから現金3億円を準備してくれ。居場所は言えない」などと11回にわたり同銀行専務Bらへ電話させ、身代金を要求しましたが、結局警察に居場所を発見されたことで未遂に終わりました。なお、Xらはこの際、手錠をかけたことなどの暴行により、Aに加療5日間を要する傷を負わせています。

 第1審は、刑法225条の2に定める「近親其被拐取者の安否を憂慮する者」を「被拐取者と近しい親族関係その他これに準ずる特殊な人的関係があるため、被拐取者の生命または身体に対する危険を親身になって心配する立場にある者」と考えました。その上で本件のAとBとは特に親近な関係にあったと認め、身代金目的拐取罪を成立させて、Xを懲役10年に処しました。2審判決もこれを是認し、控訴を棄却しています。
  弁護人は、「被拐取者の安否を憂慮する者」とは、「事実上の保護関係にある者」に限定すべきであるとして上告しました。

 最高裁は上告を棄却。
  刑法225条の2の『近親其他被拐取者の安否を憂慮する者』に関し、単なる同情から被拐取者の安否を気づかうにすぎないとみられる第三者は含まれないけれど、被拐取者の近親でなくとも、被拐取者の安否を親身になって憂慮するのが社会通念上当然な、近親者に準ずるような特別な関係にある者はこれに含まれると判断しました。
  これに基づいて本件を考えると、相互銀行の代表取締役社長が拐取された場合における同銀行幹部らは、被拐取者の安否を親身になって憂慮するのが社会通念上当然とみられる特別な関係にある者に当たるというべきだから、本件銀行の幹部らが同条にいう『近親其他被拐取者の安否を憂慮する者』に当たるとした原判断の結論は正当であると結論付けました。

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