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管理・監督過失

~大洋デパート火災事件・最高裁平成3年11月14日第1小法廷判決~

 ホテルやデパートなどの施設火災や、工場災害などで死傷者が出た場合、責任を問われるのは、直接の原因をつくった現場の従業員だけではありません。結果防止が可能で、その役割を担うべき立場にあれば、管理・監督を怠った事実の悪質さに応じて注意義務があったと認められ、業務上過失致死傷罪という形で、その上司の監督責任や経営者の管理責任が問われることがあります。これを管理・監督過失といいます。
  今回の事件では、取締役という地位にある者が、権限外の事項に関しても管理・監督過失を負うべきかが問題となりました。

 場所は熊本市の大洋デパート。
  営業時間中、2階から3階への上がり口付近で原因不明の火災が発生しました。
  火災は同階段から3階店内に侵入し、午後9時過ぎに鎮火するまで、8階に至る各階に燃え広がって、それらの階をほぼ全焼する大火災に発展しました。
  この背景には、消防当局からの再三の指摘にもかかわらず、防火管理の基本となる消防計画を作成せず、非常避難階段や非常警報設備、非難器具を設置していない同デパートの不手際がありました。さらに消防訓練もしていなかったために、火災時、従業員らは火災の通報をせず、避難誘導もほとんど行わなかったため、逃げ場を失った従業員、客など104名が死亡し、67名が負傷しました。
  当時、同デパートには防火管理者がいましたが、彼は実際上何の権限もない営繕部の課員でした。その上司である取締役人事部長Xにも、防火管理業務の執行権限はありませんでしたが、管理・監督過失を問われ、業務上過失致死傷罪で訴追されました。
  原審での福岡高裁は、Xが取締役という地位にあったこと、社内の防火管理につき関心をもって助言や指導をしていたことなどから、Xに管理・監督過失を認め、業務上過失致死傷罪を成立させました。取締役会を通じてでも直接でも、代表取締役に進言すべき注意義務があったと判断したのです。
  これに対し、弁護側はXにこうした注意義務も過失も存在しないと主張し、上告しました。
  最高裁は原審を破棄し、Xを無罪としました。そして、取締役に求められる注意義務の範囲を以下のように示しています。
  まず、会社の建物について防火管理上の責任を負うのは、一般に取締役会ではなく、代表取締役であると考えました。したがって、たとえ取締役が取締役会で防火管理についての問題点を指摘し、必要な措置を採るべく決議を促さなかったとしても、そのことでただちに「取締役が防火管理上の注意義務を怠った」とは言えないとしました。
  そして、取締役としては、取締役会において代表取締役を選任し、これに適正な防火管理業務を執行することができる権限を与えた以上、代表取締役にこうした業務の遂行を期待できないといった特別の事情がないかぎり、代表取締役の不適正な業務執行から生じた死傷の結果について過失責任を問われることはないと判断しました。
  そのうえで、原判決が判示したXの役職、言動などの事情を考慮しても、自ら防火管理上の注意義務を負っていなかった同人に、代表取締役に対し進言すべき注意義務があったとは認められず、したがって、管理・監督過失も存在しないとしました。

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