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暴行の意義

~最高裁第3小法廷昭和39年1月28日決定~

 ちょっと脅すつもりが、相手を死なせてしまった。
 脅す手段によっては、このような結果を招くこともあります。

 とった手段が脅迫(害を加えると告知すること)にすぎないものならば、身体を傷害してはいませんから、傷害罪は成立しません。死の結果は、過失により生じたものと評価されます(刑法210条)。
 では、この手段が、暴行であると判断された場合はどうでしょう。

 

 まず、他人の身体を傷害していることから傷害罪同204条)に該当し、さらに、これにより死亡させていることから傷害致死同205条)に該当します。暴行致死は傷害致死に繋がると考えられているのです。これは、刑法が、暴行罪の暴行(人の身体に対して、不法に物理的な力を加えること)が高じて傷害罪の傷害になると捉えているからです。
 今回の事案では、この「物理的な力」を加えたと認めるために、被害者の身体に「物理的に接触」している必要があるかが問題とされました。

 内縁の妻Aと屋台のおでん屋を出していた被告人Xは、店舗で飲食店を経営しようと物件を探し、ある貸店舗を見つけました。しかし、その借入交渉は思うように進まず、貸主Bが「やくざ者には店を貸さない」と言っていると聞いたXは落胆。むしゃくしゃした気分を紛らわそうと、自宅の4畳半でやけ酒を飲んで酩酊していたところにAが帰宅しました。
 口をついて出た「自分の亭主が馬鹿にされたら、出刃包丁位持って文句を言って来い」というXの言葉を本気にしたAは、「私も面白くない。それくらいのことは言って来てやる」と行きそうになり、制止にも耳を貸しません。Xは、脅して思い止まらせようと考え、立ち上ってAの目の前で日本刀の抜き身を何回か上下に振り廻しました。そうしている間に力が入り、Aの腹部に刀が突き刺さってしまったのです。Aは病院に運ばれましたが、右の腎臓・肝臓を刺された創により、失血死しました。

 第1審は、犯行時、酩酊状態であったXに心神耗弱を認めつつも、傷害致死罪を成立させました。第2審もこの判断を支持し、控訴を棄却しました。
 Xの弁護側は、刑法208条の「暴行」を「人の身体に対して不法な攻撃を加えること」と示した上で、Xの行為目的や意思はこれにあたらないと主張しました。すなわち、XはAの危険な行動を止めるために行動したのであって、何ら不法な意図はなく、Aの身体に攻撃を加える意思もなかったのだから、Aに対する暴行とはいえないというのです。
 したがって本件は、傷害致死ではなく、過失致死の当否を問うべきだとして上告しました。

 最高裁は、弁護側の論旨を事実誤認とし、単なる法令違反の主張であって、適法な上告理由にあたらないと考え、上告を棄却しました。
 そのうえで、暴行にいう「物理的な力」は人に向けられていれば足り、「物理的な接触」を指すものではないと判断。Aを脅かす目的とはいえ、狭い4畳半の室内で日本刀の抜き身を数回振り廻した行為は、Aに対する暴行というべきだという第2審の判断を正当としました。

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