サイト内検索:

現行犯逮捕に際する傷害の違法性

~最高裁昭和50年4月3日判決~

 「そいつは泥棒だ!捕まえてくれ!」
 必死の呼びかけ、そして、目の前には現行犯が。
 一般人による現行犯逮捕は、形式的には不法な逮捕として逮捕監禁罪刑法220条)にあたります。しかし、こんな場面で「私は一般人だから逮捕できない」などと言っていられません。
 刑事訴訟法213条は、「現行犯人ならば誰でも逮捕状なしで逮捕できる」と規定しています。これに「法令行為は罰しない」とする刑法35条を合わせれば、現行犯逮捕は法令(ここでは刑事訴訟法213条)に基づいた行為として違法性がなくなり、処罰されないというわけです。

 ならば安心して現行犯を捕まえよう...と言いたいところですが、ここでまた問題がひとつ。
 現行犯が抵抗したとき、どの程度の実力行使なら違法性なしとして許されるのでしょうか?度を越した違法な実力行使とされてしまえば、これで人の身体を傷つけた場合、傷害罪刑法204条)として処罰されることとなります。

 

 今回の事案では、被告人Xが現行犯逮捕のためにした傷害行為をめぐって、刑法35条の「法令行為」の許容範囲、すなわち、どこまでの行為を違法性なしと考えるのかが問われました。

 昭和45年8月9日午後8時30分頃、岩手県下閉伊郡の海上で、漁業監視船しおかぜ丸はあわびの密漁船大平丸を発見しました。
 しおかぜ丸は密漁犯人を現行犯逮捕しようと大平丸を追跡しましたが、船足が遅く困難だったため、付近にいた第1清福丸に追跡を依頼します。清福丸は大平丸を約3時間追跡し、停船を呼びかけましたが、大平丸は清福丸の船腹に衝突するなど3回にわたって激しく抵抗しました。
 清福丸側も、大平丸にビンやボルトなどを投げつけ、逃走の阻止を図りました。その際、清福丸の乗組員である被告人Xは、大平丸を操舵中のYの手足を竹竿で叩き突くなどして右足背部に刺し傷をつくり、Yに全治1週間の傷害を負わせました。

 第1審・第2審ともに、Xの行為は正当防衛ではないとして、傷害罪を成立させました。
 これに対し、弁護側は法令違反や事実誤認などを主張して上告しましたが、最高裁はこれらをいずれも上告理由にあたらないと判断。職権判断により第1審・第2審判決を破棄し、Xに無罪を言い渡しました。
 最高裁は、現行犯逮捕に際して現行犯が抵抗した場合には、状況と社会通念に照らして、逮捕に必要かつ相当と認められる限度内の実力行使が認められると示しました。これは警察官・一般人で違いはありません。そして、その実力行使が刑罰上法令に触れうるものであっても、必要かつ相当な限度内であれば刑法35条に従い、処罰しないと示しました。

 

 以上の基準で本件を考えると、まず、清福丸の行為はYを現行犯逮捕したいというしおかぜ丸の依頼に基づいたものとし、正当な現行犯逮捕行為と認めました。
 さらに、Xの傷害行為も、現行犯逮捕に際するYらの抵抗を排除しようと行った、上記の限度内の実力行使であると評価しました。この結果、Xの傷害行為は刑法35条の法令行為として違法性を否定され、無罪となりました。

ページトップへ