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通貨の変造

~最高裁昭和50年6月13日判決~

 透かしやホログラム、微細な文字の数々。
 皆さんご存知のとおり、日本の通貨には、偽物を作られないようにする工夫がたくさん施されています。

 

 通貨は国家が価値を保証するものですから、もしも偽物が蔓延してしまったら国家の信頼に関わる大問題に発展します。経済の受けるダメージも計り知れません。
 そのため、刑法は、行使(本物の通貨として流通に置くこと)を目的として、現在使われている貨幣、紙幣、銀行券を偽造したり変造したりする行為に、無期又は懲役3年以上の重罰を科しています(148条1項)。
 では、どのような行為が通貨の偽造、変造とみなされるのでしょうか?

 通貨の製造・発行権をもたない者が、本物に似た外観のものを作るのが通貨の偽造です。(たとえば、一万円札を両面コピーして偽札を作る行為はこれにあたります。)
 これに対して、本物に加工して名前や価値の異なる通貨を作るのが通貨の変造です。(千円札の表示を書き換え、全体を茶色くして一万円札に見せかける行為はこちらです。)
 ただ、本物に加工した変造でも、百円玉を溶かしたうえ五百円玉の型で抜くなど、形状等にもはや本物との同一性はみられないと判断されれば、変造ではなく偽造とされます。

 これに加え、裁判所は、通貨の偽造、変造というためには、一般人が本物の通貨と間違える程度の外観をもつものを作出していなければならないと考えています。
 以上の事情を踏まえ、今回の事案では、

  1. 被告人の作成したものが通貨の変造にあたるか
  2. 一般人が本物の通貨と間違える程度のものであるか

という2点が問題となりました。

 被告人Xは、本物の千円紙幣を表と裏にはがし、印刷のない片面を内側にして間に厚紙を挿入し、2つ折りにして糊付けしました。これを千円紙幣2枚分で作成し、外観からは本物の千円紙幣を4つ折りにしたように見える状態のものを4個作り出しました。
 Xは、類似の方法でさらに2個を作出。
 いずれも、行使の目的をもった行為でした。

 1審判決は、(1)につき、Xの行為は、通貨変造罪刑法148条1項)の未遂にも該当しないとしました。
 Xが作ったものは、どれも糊付けされていて固く、面子(めんこ)のような状態で、開こうとしても簡単に開けない状態でした。こうした事情をもとに、(2)について、何も知らない一般人がこれを一見したとき、本物と間違えるような外観ではないと考えたためです。

 これに対して、原審は、(1)につき、通貨変造の既遂罪の成立を認め、1審判決を破棄しました。(2)について、一般人が本物と間違える程度の外観であると評価したためです。
 弁護人は、この裁判所の判断について事実誤認などを主張し、上告しました。

 最高裁は上告を棄却。
 (1)につき、通貨変造罪の成立を認めた原判決を支持しました。
 (2)についても原審と同様の判断を下しました。
 本物をはがしたものなので、表面の手触りはもちろん本物と同じであるし、分厚く固いさまも、本物の通貨を4つ折りまたは8つ折りにしたものに見えると評価してのことです。これらの事情から、本物として流通する危険もあると考えました。

 以上のように、4つ折りの外観のまま、開けないものでも通貨変造罪は成立するのです。
 こんな不完全なものでもいいの?と少し意外な気もしますが、通貨の偽造・変造に対する国の危機感があらわれているといえるでしょう。

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