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親族相盗例

~最高裁第2小法廷平成6年7月19日決定~

 息子が母親の財布からお金を抜き取ったというような、身内での窃盗は、どのような評価を受けるべきなのでしょうか。

 まず、物には、それを「自分のものだ」と正当性を主張できる権利(本権)と、「手にしている」という状態そのものの保護を求められる権利(占有権)があります。
 人の物を盗む行為は、この本権と占有権の両方を侵害する行為といえ、窃盗罪刑法235条)が成立します。

 しかし、警察がやってきてこの息子を逮捕していくというのはどうでしょう。
 罪が成立することに間違いはないですが、個人の財産を侵害する罪に関しては、法が立ち入らず家庭内で処理した方がよい場合もあります。

 このようなときに、刑を免除するか、もしくは、被害者等の告訴・告発、請求がなければ刑事訴訟を起こせない親告罪として処理するのが親族相盗例同244条)です。
 また、同居していない親族(6親等以内の血族、配偶者、3親等内の姻族)に関しても、同条2項親告罪が認められています。

 さらに進んで、この息子が盗んだお金が、実は、母親が誰か他人から預かっていたものだとしたら?本権者は他人、占有権者は母親...さあ、ややこしくなってきましたね。

 今回の事案でも、本権者と占有権者が別々で、犯人がその片方としか親族関係がない場合でも、親族相盗例が適用できるのかが問題となりました。
 (※なお、平成7年改正により、改正前の244条1項前段が1項に、同後段が2項に、それぞれ書き分けられました。この事案は改正前の事案です。)

 被告人Xは、はとこのA方で、Aが保管していたB株式会社所有の現金26,000円を、駐車中の軽トラックの中から盗み取りました。
 この金銭に関しては、所有者であるBが本権者、金銭を保管していたAが占有権者です。
 ちなみに、はとこは6親等の血族なので、XとAは親族にあたります。

 第1審は、親族相盗例を適用するために、どこまでの範囲で親族関係を要求するか触れないまま、Xを窃盗罪で有罪としました。
 これに対しXは、Aとの間に同居していない親族関係があるので、刑法244条1項後段(現在の同条2項)の適用があり、本件は親告罪だと主張。Aからの告訴がない以上、公訴を棄却すべきであると控訴しました。

 原審は控訴を棄却しました。
 窃盗罪では、財物に対する占有権だけでなく、その背後にある本権も保護の対象としているとの考えから、財物の占有権者Aのみならず、その本権者Bも被害者として扱われるべきだと判断してのことです。
 その上で、244条1項が適用されるには、窃盗犯人Xと、財物の占有権者A及び本権者Bの両方との間に、同条項所定の親族関係がなければいけないと示しました。
 それゆえ、単にXとAとの間にしか親族関係がない今回のような場合には、同条項は適用されないと解すべきであるとしました。
 Xは、昭和24年5月21日の最高裁判決が、犯人と占有権者との間に親族関係があれば親族相盗例を適用できるとし、本権者との関係は問わないとしている等と主張して上告しました。

 最高裁は、上告を棄却。
 窃盗犯人が所有権者以外の占有する財物を盗む場合に、親族相盗例を適用するには、やはり犯人と財物の占有権者、犯人と所有権者の双方が親族関係にあることが必要と判断したのです。
 この双方に親族関係を求める理由まで原審と同様かは不明ですが、原審の判断は正当だと結論付けました。

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