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犯罪結果を防止する行為の真摯性

~大阪高裁昭和44年10月17日判決~

 犯罪を実行してしまったけれど、それを後悔して何とかしようとする。
 人間としてはその気持ち、わからなくもありません。

 刑法は、犯罪の実行に着手しても自力でそれを中止し、結果を発生させなかった者には、中止未遂43条但書)として刑の減軽または免除を認めています。
 しかし、これを適用するには、自分の意思で中止行為をしたことで、結果を発生させなかったという条件を満たす必要があります。

 ですから、もう実行行為(たとえば、人を刺す行為)を終了している場合には、そのままでは結果(たとえば、相手の死亡)が発生してしまうのが普通なので、積極的な行動で結果阻止にあたらねばなりません。
 その際の判断基準となるのが、「自らの内心にしたがった防止行為か、それと同視しうる程度の真摯な努力」の存在です。これがあれば積極的な行動とみなされます。
 今回の事案でも、この点が問題となりました。

 被告人Xは、犯行直前に未必の殺意(この場合は、「刺すことでたとえ死んでも構わない」という故意)を生じて刺身包丁を持ち出し、被害者Aの左腹部を1回突き刺して、肝臓に達する約12㎝の刺し傷を負わせました。
 その後XはAと包丁の取り合いになりましたが、Aが腹部の激痛に耐えかね「痛い痛い」と泣きながら「病院へ連れていってくれ」と哀願したので、Aを自動車に抱き入れて自ら運転し、直ちに近くの病院へ連れて行って、医師に引き渡しました。
 ちなみにXは、病院に到着する直前に凶器の包丁を川に投げ捨て、犯跡を隠そうとしています。また、A手術中の病院でも、自分とAの共通の友人数名やAの母等に対して、犯人は自分ではなく、誰かわからないがAは他の者に刺されていたと嘘をついていました。
 肝心のAは、一命を取り止めることができました。

 第1審は、Xの行為を中止未遂と認めず、Xはこれを不服として控訴しました。

 高裁は第1審の判断を破棄し、自ら判断したうえで中止未遂の成立を否定しました。
 まず、被告人がAを刺した行為は、それ自体が殺害の結果を発生させる危険性の高いもので、Xは実行行為を終了したと考えました。
 また、実行行為終了後、重傷に苦しむAをそのまま放置すれば、死亡という結果が発生していた危険性が大きいことから、中止未遂認定には、Xが「結果防止のため真摯な努力を注いだ」ことも必要としました。
 Xの内心による、積極的かつ真摯な結果防止への努力を求めると示したわけです。

 「内心による」という点に対しては、実行行為時Xに未必の故意があったにせよ、殺意を放棄してA救命のために活動を開始したのだから、Xは、Aに対する憐憫の情と、事の重大さに対する恐怖驚愕という内心にしたがい任意に結果発生防止に努めたと評価しました。

 しかし、「真摯な努力」という点に関しては、Xが、病院の医師に対し、犯人が自分だと打明け、犯行の時、場所、凶器、態様を説明したり、医師の手術・治療などの経済的負担を申し出るなどしていないので、救助のための万全の行動を採ったものとは言いがたいとしました。
 Xは単にAを病院へ運ぶという一応の努力をしたに過ぎず、この程度の行動では、結果発生防止のためXが真摯な努力をしたと認めるには足りないと判断したのです。

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