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外国人被告人と法廷通訳

~大阪高裁平成3年11月19日判決~

 近年、社会・経済の国際化に伴い、外国人犯罪が増加しています。
 その被告人には日本語が話せない者も多く、捜査・法廷では通訳をつけて対応しています。

 法廷通訳人に求められるのは、次の4点です。

  1. 通訳の正確性・誠実性の保持
  2. 熟達した通訳能力の保持
  3. 中立性、公正の保持
    法廷通訳人は、公平・中立な立場で裁判を行う裁判所の補助者です。被告人側・検察側のいずれにも偏ってはいけません。
  4. 職務上知り得た秘密の保持
    訴訟係属中も終了後も、職務上知った情報を漏らすことは許されません。

 これらに反すれば解任される場合があります。
 また、訴訟での通訳内容が不正確なときは、異議申立て刑事訴訟法309条1項)ができると考えられています。

 今回の事案では、上記(1)~(4)の条件に関連する訴訟手続が問題となりました。

 英国籍の被告人X(使用言語は広東語)と共犯者Y及び Zは、強盗を企ててA方に侵入。
 金員の強奪に失敗し、逃走しましたが、その際、抵抗したAの父親Bの胸部等を包丁で刺して失血死させました。
 Xらは、強盗致死等の共同正犯として起訴されます。

 このときXの通訳を担当したのは、捜査と訴訟(第1審の神戸地裁)を通じて同一のPでした。
 また、第1審では重要な証言等の通訳内容は録音されませんでした。

 第1審は、Bの刺殺行為を実行したのはXだとして、強盗致死傷罪を成立させます。
 Xは、事実誤認の他、訴訟手続の法令違反を主張して控訴しました。

 高裁は、事実認定に関して、B死亡の原因をXの暴行のみと認定した原審の立証は不十分で、これが判決に影響を及ぼすことは明らかだと判断し、原判決のXに関する部分を破棄、差し戻しました。

 訴訟手続については、

  1. 捜査・訴訟を通じて同じ通訳人Pが担当していたこと((3)の不足)、
  2. 原審の判示部分にさえPが勝手な取捨選択や誤訳をしていたこと((1)(2)の不足)、
  3. 通訳人Pが、Xと領事館の係員との面接結果を検察事務官(検察側の人間)に供述したこと((3)(4)の不足)

の3点に関して、次のような職権判断を示しました。

 まず、(i)については、取調べ時の供述に拘束されない自由な弁解や、裁判の公正を確保し、捜査と訴訟を明確に分けるために、捜査と訴訟で同一の通訳人を選任することは望ましくないと断じました。
 ただ、少数言語の通訳人数や、通訳の「機械的な言語変換」という側面に配慮し、直ちに不当または違法とまではいえないとしています。

 次に(ii)については、原審では、重要な証言や被告人質問の通訳内容が録音されていないため、事後的な検証ができず、通訳人の恣意や誤訳が介在しているという弁護人の指摘を否定できないとしました。原審での各証言や供述に対する通訳の正確性に、一抹の危惧を示したのです。
 (※現在では、裁判長の指示で外国語の原供述とその通訳を録音するため、このような問題は起きません。)

 (iii)については、これをPの姿勢を暗に示すものとして、その公平性や秘密保持力に疑問を呈しました。
 法廷通訳人は公正さを疑われるような言動は厳に慎むべきで、弁護人の接見に関与して被告人側の情報を得たとしても、それを検察側や裁判所に伝えてはならないし、訴訟時にそれを前提にした行動に出ることも許されていないからです。

 以上のことから、原審の選任した通訳人に関しては、弁護人の批判が妥当だとしました。

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