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結果的加重犯と過失の要否

~最高裁昭和32年2月26日第三小法廷判決~

 よくある設定ですが、暴行の結果、相手は死んでしまったが、殺すつもりはなかった場合、刑法ではどのように処理されるのでしょうか。

 犯人の意識としては15年以下の懲役か50万円以下の罰金で済む「傷害罪刑法204条)」ですが、死というはるかに重い結果が生じています。わざとでないとはいえ、これは見過ごせませんよね。
 こうした事態を処理するため、刑法は、人の身体を傷害し、それによって相手を死亡させた者を3年以上の有期懲役に処する「傷害致死罪205条)」を設けています。

 このように、基本となる罪よりも重い結果が発生した場合に、その基本となる罪よりも重く処罰する旨の規定を「結果的加重犯」といいます。

 ただし、ここで問題となるのが、結果的加重犯を成立させるうえで、基本となる犯罪行為と結果との間に客観的な関連性(因果関係)があれば足りるのか、それ以上に、重い結果が発生することを予見できたことまで必要かという点です。

 そもそも刑法には、行為者の意思に基づかない行為については、罰しないという原則があります(責任主義)。自分の意思に基づかない行為について、非難することはできないからです。
 この責任主義の考え方からすれば、重い結果の発生を予見できなかったり、予見できたとしても発生を防ぐことができない場合には、処罰されないことになります。意思の力で結果の発生を防ぐことができないからです。

 以上を前提に、被害者が特異体質だったために普通よりも軽度の暴行で死亡してしまったが、被告人はその死を予見していなかったという事案で、裁判所はどう判断しているのか見てみることにしましょう。

 被告人Xは、日頃から勝ち気な妻Aと性格的に合わず、離婚話が持ち上がるような関係でした。
 ある日、深夜に帰宅したAと口論・喧嘩になり、憤慨したX。
 Aの後方から左腕を首に回して引きつけようと試みましたが、Aがその手を払いのけ、起き上がろうとしたため、Xは再び左腕を首に巻きつけて、仰向けに引き倒してしまいます。さらに、その上に馬乗りになって両手で頸部を圧迫しました。
 この暴行により、Aは、その場でショック死するに至りました。
 ちなみに、当時のAは心臓肥大と肝臓の高度の脂肪変性という特異体質を抱え、月経中でもありました。心臓肥大は心臓に十分な血液が行き渡らないおそれがあり、症状が進めば心筋梗塞等になるおそれがあります。

 第1審は、傷害致死罪の成立を認め、原判決もこれを支持して控訴を棄却しました。
 そのうえで、暴行とショック死との間には間接的ながらも因果関係があると判断。
 結果的加重犯の成立についても、結果に対する予見可能性までは必要ない(=結果について過失は不要)と示しました。

 これに対して弁護側は、死の結果について過失のないXには傷害致死罪が成立しえないと主張し、上告しました。

 最高裁は上告を棄却しました。
 まず、第1審、原審の「暴行と死の間に間接的な因果関係が存在する」という判断は、鑑定書記録から明らかであると支持しました。
 そして、過去の最高裁判例においても、傷害致死罪を成立させるには因果関係があればそれで足り、過失までは要求してこなかったと示しました。
 暴行と死亡との間に因果関係が必要だけれど、致死の結果についての予見は必要としないというこれまでの判断を踏襲したわけです。
 以上の基準から、Xが死の結果を予め認識できる可能性がなくとも、因果関係が認められた本件Xの行為は、傷害致死罪にあたると断じました。

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