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侵害の急迫性

~最高裁昭和52年7月21日第一小法廷決定~

 殴られそうになったので咄嗟に相手方を蹴って逃れた、という場合、これを犯罪だ!傷害罪だ!というのは少々気の毒ですよね。

 刑法上、急迫不正の侵害(現在差し迫った、人権に対する不正な危険)から自分や他人の権利を守るため、やむを得ずにする行為は、適法な正当防衛として、犯罪にならないとされています(36条)。

 ここで今回問題となるのが、「急迫」という部分。
 急迫性が認められるには、

  1. 過去でも将来でもなく、「現在」の侵害が存在する
  2. 防衛の機会を利用して、積極的に相手方に加害するような「積極的加害意思」に基づいていない

 という2つの条件を満たしていなければいけません。

 今から紹介する事案では、防衛行為をする者が、侵害行為を予期して防衛の準備をしていました。
 この場合、上記(1)(2)の点はどう評価され、急迫性判断にどう影響するのでしょうか。

 新左翼党派である中核派と革マル派は、対立関係にあり、激しい党派闘争を繰り広げていました。
 被告人Xらは中核派の学生で、集会の際、革マル派の学生らからの攻撃を予期して鉄パイプなどの凶器を準備し集合していました。
 そこへ攻撃してきた革マル派のうち、Aの頭部等を鉄パイプ等で乱打するなどの暴行を加えるなどして、いったんは同派学生らを撃退します。
 そのうち再度攻撃を仕掛けてくるだろうと予期してさらにバリケードを築いていると、予想通り革マル派学生らの攻撃が始まりました。
 これに対して、Xらは、鉄パイプで突くなど共同で暴行を加えたとして起訴されました。

 1審判決は、Xらは革マル派の者らの襲撃を漠然と知っていたというだけなので、現在の侵害がないとはいえないため、革マル派による侵害行為には(1)の現在性があり、急迫性ありとしました。また、対抗準備を整えていたことも急迫性を失わせるものではなく、(2)も満たしているとしました。

 これに対し原判決は、革マル派の第2の攻撃はXらが当然に予想していたもので、現在の侵害が存在するとはいえないため、(1)を満たさず、不正の侵害があっても急迫性はないと判示。
 この判決の中で、Xらは、相手の攻撃を当然に予想しながら、単なる防衛の意図ではなく、積極的攻撃、逃走、加害の意図をもって暴行に臨んだことも明らかになりました。

 弁護人は、不正の侵害が予期できたかは(1)に関係がなく、急迫性判断とつながらないとし、革マル派のXらに対する攻撃は、やはり急迫不正の侵害であるとして上告しました。

 最高裁は上告を棄却しました。

 正当防衛に「急迫性」が必要とされているのは、「予期できる侵害なら避けよ」と義務付ける趣旨ではないため、当然又はほとんど確実に侵害が予期できたとしても、それが直接の理由となって急迫性がなくなるわけではないとしました。
 したがって、(1)で「将来の侵害の察知=現在の侵害なし」とした原判断は、その限度においては違法だと判断しました。

 しかし、予期された侵害を避けなかっただけでなく、(2)にいうような積極的加害意思をもって侵害に臨んだときは、急迫性はないと基準を示しました。
 この点、原判決を見ると、Xらは、積極的加害意思をもって行為に及んだということなので、(2)を満たさず、急迫性なしとした原判断の結論自体は正当であるとしました。

 急迫性を認めず、正当防衛でないとした結論は原判決と同じですが、その根拠を条件(2)の不足に求めたというわけです。

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