サイト内検索:

不作為の幇助

~札幌高裁平成12年3月16日判決~

 近年、子供が実の親と内縁関係にある者から殺害される事件が頻繁に報道されています。
 その時、実の親は何もしていないこともしばしば。
 この何もしなかったという不作為が、実際に犯罪行為をした正犯の行為を助け、犯罪実現を容易にした(刑法62条幇助犯)といえる場合があります。
 それは、不作為が、積極的に悪い行動に出た作為と同視できる程度に重大な影響を持つときです。
 今回の事案では、被告人の行動が不作為による幇助にあたるかが問題となりました。

 被告人X女(当時妊娠中)は、親権を有する二男のA(当時3歳半)を連れて、Yと内縁関係を続けていました。
 YはAを可愛がらず、顔面・頭部を殴打し、転倒させるなどの暴行を加え、やがて死亡させてしまいます。
 この時Xは、Yが暴行しようとしていることを認識しながら、何の措置も講じませんでした。

 原審は、不作為による幇助の条件として

  1. 行動を起こす義務があった
  2. 行動していればほぼ確実に犯行を阻止できたのに放置した
  3. さらにその行動が本人にとって容易だった

という3点を示します。

 その上で、(1)について、Aの唯一の親権者Xは、Aに日常的に激しいせっかんを繰り返しているYの暴行を防ぐため行動する義務はあったものの、妊婦であるため身を挺した制止は難しく、自らもYから暴行を受け恐怖心があったことから、(2)(3)について積極的に認めることはしませんでした。
 これらの事情から、(1)で認めた義務も軽度のものにとどまると判断し、Xに無罪を言い渡しました。

 札幌高裁は、親権者であるXに(1)を認め、原審の条件(2)を不要と考えました。
 (2)に該当する事項として、XがYの側で監視するだけでも、Yにとっては心理的抑制となるし、また、「やめて」など口頭での制止があれば、Yが暴行をやめるきっかけを作ることもできたとしました。
 さらに、Xの妊娠中は、Yは腹部を避けて暴行していたことから、実力で制止した場合にも、胎児に危険を及ぼさず、ほぼ確実にYの暴行を阻止できたと考えました。

 以上のことから、制止行動は必ずしも困難ではなく、(3)の条件も満たしており、上記のような行動を、具体的状況に応じて段階的または複合的に行うことで、YのAに対する暴行を阻止することは可能だったとして、傷害致死罪の不作為の幇助犯を成立させました。

ページトップへ