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接触のない暴行

~東京高裁平成16年12月1日判決~

 傷害が過ぎて相手を死なせた場合、傷害致死罪になります。
 この傷害の成否は、身体に対する不法な実力行使、つまり「暴行」があったかがポイントです。

 実力行使といえば直に殴るなどの行為を考えがちですが、被害者本人など、対象に直接接触しない場合は、暴行といえるのでしょうか?

 被告人Xは自車(以下X車)を運転中、A運転の4tトラック(以下A車)にカーブで幅寄せをされたとして立腹しました。
 対向車線に進出するなど、危険な方法でA車と併走し、極めて(最短1m以下)接近する幅寄せや、強引に追い越して斜めに割り込む進路妨害を何度も行い、約3㎞にわたって執拗な追跡を行います。
 この際X車は、A本人はもちろんA車にも接触しませんでした。

 進路妨害によってついにA車を停止させたXは、約10分間、Aに怒号しつつ、同車の運転席ドアやガラス、屋根、方向指示灯等を蹴り、アンテナを折り曲げ、手拳で運転席ドアガラスを殴打するなどの行為を継続しました。
 ちなみに、この時にも、XはA本人に触れていません。

 Aはすきを見て逃げ出し、見通しの利かない場所を走っているうちに、欄干に気づかないまま、段差につまずいてこれを飛び越え、約11.5m下のアスファルトに転落・死亡しました。

 幅寄せをはじめとした、Xの一方的で強烈かつ危険な追跡行為がAを極度の畏怖状態に陥れ、さらに、A車への暴行がその畏怖状態を継続させ、恐怖心理を高めたという事情が、Aの逃走・死亡の原因となる「暴行」と評価できるかが争われました。

 原審は、Xの一連の行為を「暴行」と認定、傷害致死罪として懲役3年に処しました。
 これに対してX側は、一連の攻撃は間接的で、死亡・傷害と背中合わせとまではいえないため、「暴行」にあたらないなどと主張。
 検察側も、量刑が軽すぎると主張して、両者とも控訴しました。

 東京高裁は、原審のXに関する部分を破棄し、同じく傷害致死罪を成立させた上で、懲役4年に処しました。

 被告人車両が実際に被害者の身体や被害車両に接触する必要はなく、接触や交通事故を惹起するなどの実質的な危険性があれば足りると考えたのです。
 そのため、交通量が多く、幅員の狭い国道で起きた本件の幅寄せ行為について、結果的には交通事故にならなかったが、Aが運転を誤り、重大な交通事故を起こさせる可能性は極めて高かったと判断しました。
 そして、このことは、A車の大きさや、職業運転手であるAの運転技量、気象条件、幅寄せ・進路妨害をした現場の地形が特に危険ではなかったという事情を考慮しても同様としました。

 さらに、A車を停止させた後の、同車に対する強い攻撃の数々も、これによりガラスが割れた場合には運転席の人間の身体に危害を及ぼす、危険性の高い行為と考えました。
 以上のことから、Xらの一連の行為を、Aに対する暴行と認定したのです。

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