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保護責任の根拠

~最高裁昭和34年7月24日判決~

 もしも、病人や子供など、生命維持に手助けを要する者に対して、面倒をみるべき者が何もしなかったとしたら...当然、相手は生命や身体に深刻なダメージを受ける危険にさらされることになります。

 そこで、法は、病人や子供を保護する責任のある者が、必要な措置を怠ったり、これを遺棄したりする行為を、保護責任者遺棄罪(刑法218条)として罰しています。しかし、同条には、どのような場合に保護責任を負うのかは具体的に定められていません。

 今回紹介する事案では、被害者Aを車ではねた被告人Xに、Aに対する保護責任があるかが争われました。

 被告人Xは、午後8時頃、自家用普通自動車(以下X車)を運転して通称御堂筋(大阪市内中心部を貫く大きな国道。交通量・人通りともに多め)を通行していました。
 同乗していた長女らの土産を買おうと店舗の方向に気をとられているうちに、X車の前方を横断しようとした歩行者Aをはね、約3か月の入院加療を要する傷害を負わせます。
 午後8時30分頃、Xは、この怪我で歩けなくなったAを、X車で同市内の別の場所に運びましたが、「医者を呼んで来てやる」と嘘をついて雪の降る中Aを下車させ、そのまま放置して立ち去りました。ちなみに、ここは薄暗く、御堂筋よりも他の救助者を探すのが難しい場所でした。

 原審は、Xに保護責任者遺棄罪を成立させました。
 これに対し弁護側は、Xに保護責任はないと主張して上告しました。

 最高裁は上告を棄却。
 まず、車馬等の交通によって人が死傷した場合には、その操縦者は、直ちに被害者の救護その他必要な措置を講ずる義務があり、これらの措置をしたうえ、警察官の指示を受けてからでなければ操縦を継続したり現場を立ち去ったりしてはいけないという、道路交通取締法等の救護義務(道路交通取締法24条、同法施行令67条)を示しました。
 そのうえで、自動車運転中に過失でAをはね、重傷を負わせて歩行不能に至らしめたXは、Aに対して、法令に基づく救護義務があり、これをもって保護責任もあるとして、Xに保護責任者遺棄罪の成立を認めました。
 その後の判例の蓄積等により、保護責任は、(1)法令や契約などにより保護義務が定められていたり、(2)慣習・条理から判断して保護するのが当然な場合で、他に救助者がいないときに認められるとされています。

 ちなみに、押尾学被告人が、麻薬摂取により生命に危険が生じた女性を放置して死なせ、保護責任者遺棄致死罪に問われた事件では、(2)の観点から保護責任が認められるかが争われています。つまり、被害女性に麻薬を渡して生命の危険が生じる原因を作り、マンションの一室という他の救助者を見込めない状態だったならば、条理上、保護責任を負うと考えられるからです。

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