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被害者に存在した異常と因果関係

~札幌地裁平成12年1月27日判決~

 蜂に刺されたときに腫れるだけで済む人と、ショック症状まで出てしまう人がいますよね。
 それと同様に、同じ強度の暴行でも、それを受ける相手の事情によって被害結果に差が出ることがあります。

 今回の事案では、暴行と結果の因果関係判断にあたり、被害者の異常な体質という特殊事情をどう評価すべきかが問題となりました。

 被告人X女は、夫Aの態度に不満を持っていました。
 そこでXは、Aに自分を見直してもらうため、Aに入院するほどの傷害を負わせて看病することを考えつきます。
 XはYにAの襲撃を依頼し、さらにYがZ等3名に依頼をして、Aの頭部・顔面等を多数回手拳で殴打したり、足蹴りにするなどの暴行を加えました。
 この暴行でAは頭蓋側頭骨骨折、急性硬膜外血腫および脳挫傷等の傷害を負い、約1か月後に、当傷害から消化器系のショックという合併症を起こして死亡しました。

 しかし、その後、Aは異常な体質で、特殊な病変により死亡した可能性が高いことが、解剖により明らかになります。
 また、消化器内科の専門家であれば、この特殊な病変を想定して最善の治療を施すことができた可能性もあると認定されました。つまり、最善の治療を受けられれば、Aは死亡せずに済んだかもしれないのです。

 札幌地裁は、A頭部への傷害とAのショック死の間に因果関係を認め、傷害致死罪刑法205条)を成立させました。

 被害者に重い傷害を負わせた場合、この傷害によって起こった合併症が原因となって死亡する場合があります。
 判決は、当初の傷害が直接の死因でなくても、合併症が医学上通常起こり得るものであり、かつ当初の傷害が死亡の危険性が高いものであれば、傷害とその合併症による死亡との間には、因果関係を認めることができるという基準を示しました。

 本件のように、頭部外傷を負った者が、肉体的・精神的なストレスから消化性潰瘍を併発したり、急性粘膜病変等が起こり、これらから消化管出血が起こって死亡の危険が生じる場合があることは、医学的常識であって、臨床上もよくみられることです。
 つまり、頭部外傷を負わせるという行為自体の危険性はもちろん、それが消化器の病変につながり、大量の出血や、ひいては死を招く危険性も当然に内包しているといえます。
 以上から、傷害とA死亡の間には因果関係があると判断しました。

 そして、最善の医療を受けていればA死亡の結果が発生しなかった可能性があったとしても、これは、Xらの行為と相俟ってA死亡の結果発生を助長させた事情にすぎないから、傷害行為とA死亡との間の因果関係が否定されることはないと結論付けました。

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