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誤想過剰防衛(勘違い騎士道事件)

~最高裁昭和62年3月26日決定~

 人は、殴られそうになるなど危険な目にさらされれば、とっさに身を守ろうとしますよね。
 この危険が差し迫った不正なものであって、相手を突き飛ばすにせよ、殴るにせよ、その防衛手段が適度なものならば、「正当防衛」として許される(刑法36条1項)ということは、皆さんもなんとなくご存知でしょう。

 ただ、気が動転している状況下では、この危険がただの勘違いであったり(誤想防衛)、防衛行為が行き過ぎてしまったり(過剰防衛同条2項)ということも起こり得ます。
 誤想防衛の場合、防衛の際の勘違いが無過失によるものと判断されれば、罪を犯す意思がなかったとして無罪です(同38条1項)。
 過剰防衛の場合は、情状により、刑を軽くしたり免除したりはできるものの、度を超した部分に関して罪を問われます。
 この両方の場合は、誤想過剰防衛として、やはり行き過ぎた防衛行為に対する責任を問われることになります。

 今回の事案は、こうした、ちょっと困った防衛行為に関するものです。

 来日8年になる英国人Xは、空手3段の腕前です。
 夜間、Xが帰宅していると、路上で女性Aと男性Bが揉み合っており、Aが倉庫の鉄製シャッターにぶつかって尻餅をついていました。
 この光景を見たXは、BがAに暴行を加えているものと判断しました。
 しかしこれは誤解で、本当は酩酊したAをBがなだめていたのです。

 XはAB間に割って入り、Aを助け起こそうとした後、Bに向かって両手を差し出し近づきました。
 これを警戒したBは、防御するため手を握って胸の前あたりにあげたのですが、この姿勢をボクシングのファイティングポーズと思い、自分に殴りかかってくるものと誤信したXは、自分とAの身体を守ろうと、とっさに空手技の回し蹴りをして左足をBの右顔面付近に当て、Bを転倒させて頭蓋骨折等の傷害を負わせました。
 Bは、これが原因で8日後に死亡しました。

 Xの行為につき、1審は誤想防衛として無罪とし、2審は、誤想過剰防衛として傷害致死罪を成立させました。
 これに対し、弁護側は誤想防衛を主張し、上告しました。

 最高裁は上告を棄却。
 Xの回し蹴り行為は、Bからさし迫った不正な侵害の危険があるとXが誤信していたことを考えても、防衛手段として行き過ぎていることが明らかで、傷害致死罪が成立すると判断しました。
 そのため、いわゆる誤想過剰防衛として刑の軽減で対応した2審を支持したのです。

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