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警察官の発砲と特別公務員暴行陵虐罪

~最高裁第一小法廷平成11年2月17日決定~

 警察官は職務にあたって警棒や拳銃といった武器を携帯していますが、被疑者に怪我をさせた場合など、武器の使用に関して責任を問われることがあります。

 警察官職務執行法7条によれば、警察官は、犯人の逮捕や逃走の防止、自分や他人の防護、公務執行に対する抵抗抑止のうえで「必要であると認める相当な理由のある場合」には、「その事態に応じ合理的に必要と判断される限度」ならば、武器の使用が適当と認められます。
 今回の事案では、Xの武器使用がこの「」で抜かれた2条件にあてはまるかが問題となりました。

 被害者Aは、本件の1か月ほど前から、N地区等を散策するのを日課としていましたが、付近住人らはAを警戒し、警察にも警戒を要請するまでになっていました。

 ある日、駐在所勤務の警察官である被告人XはAを見つけ、住所等を尋ねます。
 するとAはそれに答えることなく、突然逃げ出したのです。

 Xが再びAを見つけ、近づくと、Aは右手に刃体約7.4cmの果物ナイフを、刃先を前に向けて握っていました。
 相勤の警察官が拳銃を構え、ナイフを捨てなければ撃つと警告しても、Aはナイフを捨てず、これを振り下ろして反撃の姿勢を示し、また逃走しました。

 銃刀法違反・公務執行妨害の現行犯となったAを逮捕しようと、Xはさらに追跡。
 再度Aに追い付き、ナイフを捨てろと叫びましたが、Aはナイフと手提げ袋を振り廻して反抗したため、Xは拳銃1発を発射し、Aの左手に命中させました。

 Aはなおも逃げ、後ずさりしながらナイフを振り下ろし、その場にあったはで杭(長さ約170cmの木の棒)1本を両手で持ってXに殴り掛かりました。
 Xは特殊警棒で応戦しましたが、取り落としてしまい、加療約3週間を要する怪我を負います。その場にあったはで杭の山に追い詰められた形になり、Aの左大腿部を狙って拳銃を1発、発射しました。
 弾はAの左乳房部にあたり、Aはこの傷のためその場で失血死しました。

 なお、はで杭の山の左右は開けており、Xは十分左右に進路を変えられる状態でした。

 Xは特別公務員暴行陵虐致死罪刑法196条)で起訴されましたが、第1審はXの武器使用を適法と認め無罪としました。
 これに対し、原審は拳銃の発射を違法とし、同罪を成立させたため、弁護側は事実誤認などを理由に上告しました。

 最高裁は上告を棄却。
 Xの2回にわたる発砲行為については、Aを逮捕し、自己を守るためのものと認めたものの、Aのナイフは比較的小型で、抵抗の態様も、Xが接近しない限り積極的に危害を加えるような状況になく、Xが性急にAを逮捕しようとしなければ、激しい抵抗に遭うことはなかったと判断しました。
 Xは逮捕行為を一時中断し、相勤の警察官を待って、協力して逮捕行為に出るなど、他の手段を採ることも十分可能だったため、Aに拳銃を発砲することが許される状況にはなかったと考えたのです。
 したがって、Xの各発砲行為は、警察官職務執行法7条の『必要であると認める相当な理由のある場合』に当たらず、『その事態に応じ合理的に必要と判断される限度』を逸脱していて適当でないとしました。

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