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自殺関与罪と殺人罪

~福岡高裁宮崎支部平成元年3月24日判決~

 自分が良かれと思ってしたことが実は犯罪で、警察に追われていると聞かされたら。
 あなたならどんな反応をするでしょうか。

 被告人Xは、一人暮らしの女性A(当時66歳)から750万円を騙したような形で借り受けましたが、一向にその返済の目途を立てられずにいました。
 そこで、Aを自殺させて返済を免れようと企てたXは、Aが第三者に金銭を貸していたことを種に、「この貸金行為は出資法違反だから罪に問われれば3、4か月刑務所に入ることになる」などと虚偽の事実を伝えて脅迫します。
 さらにXは、不安と恐怖におののくAを、「警察の追求から逃してやる」と連れ出し、17日間も色々な所を連れ回ったり、自宅や空き家に一人で潜ませました。
 その間、体力・気力ともに低下したAが知り合いや親戚と接触することも絶ちました。
 こうした状況下で、Aは「もはや逃げ隠れする場所がない状況だ」との勘違いを深めており、Xはこれに乗じてAに「身内に迷惑がかかるのを避けるためにも自殺する以外に道はない」と執拗に勧め、Aを心理的に追い詰めていきました。
 犯行当日には、警察の追及が間近に迫っていると告げてAの恐怖心をあおった上、自分もこれ以上庇ってやれないと突き放すことで、「もはやこれ以上逃れる方法はない」と誤信したAに自殺を決意させ、A自ら農薬を飲み込ませて死亡させました。

 第1審は、Xに強盗殺人罪刑法236条)を成立させました。
 この強盗殺人罪成立には「殺人を犯した」という前提が必要ですが、Aを騙して心理的に追い詰め自殺させた本件のような場合は、殺人と認めてよいと判断したのです。

 これに対し、弁護側は、XのAに対する強制は心理的強制に止まり、物理的に追い込むほどの積極的な欺罔行為はしていないと主張。
 さらに、「被害者が自殺の意味を理解し、自殺について自由に判断できる能力がある場合に、真意で自殺を決意したという状況ならば、その自殺の手助けをした者は自殺関与罪同202条)にとどまる」とされていることから、正常な判断能力を有していたAの自殺は真意に基づくものゆえ、Xの行為は自殺関与罪にとどまるとして控訴しました。

 福岡高裁は控訴を棄却しました。
 自殺を選択するというAの意思決定は、そもそもXの「出資法違反だ」という嘘から警察に追われていると勘違いしたことから始まり、Xによる長期間の逃避行や、Xからの執拗な自殺勧告によって状況判断上の錯誤がさらに進んだことに起因すると判断しました。
 したがって、Aが自分の客観的状況について正しい認識をもつことができたならば、およそ自殺を決意する事情にはなかったのだから、この自殺の決意は「真意に添わない重大な欠陥のある意思」であって、Aの自由な意思に基づくものとは到底いえないとしました。
 以上から、Aを誤信させて自殺させたXの行為は、Aの行為を利用した殺人行為に該当すると認めたのです。

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