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共犯からの離脱

~最高裁平成6年12月6日第3小法廷判決~

 複数人が共同して実力行使し、たちの悪い酔っ払いの絡みを跳ね除けるのはよくある話です。
 刑法は36条1項で、差し迫った不正の侵害に対する防衛行為は罰しないとしていますが、仲間の一部がこれに止まらず、余計に手を出してしまうこともあります。
 こうした場合に、やり過ぎていない他の者も、共同して罪を犯した共同正犯同60条)として余計な暴行の結果まで責任を負うべきなのでしょうか。

 被告人Xは、深夜、友人A、B、C、D(Dは女性)と歩道上で雑談をしていました。
 そこへ酩酊して通りかかったGと口論になったのですが、GはDの髪の毛を掴み、引き回すなど乱暴を始めました。
 Xら4名はGを殴る蹴るなどしてこれを止めようとしましたが、GはDの髪を掴んだまま、これに応戦しつつ道路を渡り、駐車場入り口付近までDを引っ張っていきます。
 Xらはその後を追いかけ、Dから手を離させるためにGを殴る蹴るし、ついにGはDの髪から手を放しました。
 しかしGは、Xらに「馬鹿野郎」などと悪態をついてまだ応戦する気勢を示しており、これに苛立ったB、AがGに各々殴りかかろうとしたため、どちらもCが制止しました。  
 ところがその直後、AがGの顔面を手拳で殴打し、転倒したGはコンクリート床に頭部を打ち付けて加療7か月を要する傷害を負ったのです。
 その際、Xは、自ら暴行することも、Aの暴行を制止することもありませんでした。

 Xは、A・Bと共謀の上Gに傷害を負わせたとして起訴されました。
 第1審、第2審ともに、「Xらの行為は意思連絡の下に行われた一連一体のもの」としてその全体について共同正犯を成立させ、過剰防衛にあたると判断しました。
 これに対し弁護人は、捜査官の取調べに違法があったなどとして、憲法31条等を理由に上告しました。

 最高裁は、弁護人の上告趣意が上告理由(刑事訴訟法405条)に当たらないとしながらも、職権で次のように述べて、原判決を破棄し、Xに無罪を言い渡しました。

 まず、一連の暴行を(1)相手方の侵害から防衛するため、複数人が共同して行った暴行 と、(2)相手方からの侵害終了後も、一部の者が行った暴行 とに分け、その上で、(2)の暴行に加担しなかった者(本件ではX)の正当防衛の成否を考えるべきとしました。
 ここでは、(1)の暴行が正当防衛である場合には、(1)と(2)の意思は断絶したものと見ます。すなわち、(2)の意思を検討するにあたっては、「(2)で(1)の意思から離脱したか」というよりは、「(2)で新たに共謀が成立したか」を考えるわけです。
 (2)で新たな共謀が成立したと認められれば、初めて、(1)と(2)を全体として考察します。

 本件では、(1)が「GがDの髪を離すに至るまでの暴行(反撃行為)」、(2)が「その後の暴行(追撃行為)」です。
 これをXに関して見てみると、(1)に関してはGの不正な侵害に対する正当防衛が成立しますし、(2)については新たに暴行の共謀が成立したわけではありませんから、(1)と(2)とを一連一体のものとして総合評価する余地はないと評価され、結果としてXは無罪とされたのです。

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