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往来の危険とは

~最高裁平成15年6月2日決定~

 人々の足として生活に欠かせない鉄道も、ひとたび事故を起こせば大惨事につながる可能性があります。
 そのため、鉄道や標識を破壊するなどして、汽車や電車の往来を危険にさらした者は、往来危険罪刑法125条)として2年以上の有期懲役が科されることになっています。

 本件では、ここにいう「往来の危険」の内容が問題となりました。

 被告人Xは、旧国鉄に防災工事費用の分担を申し入れましたが、拒絶されてしまいました。

 怒ったXは、国鉄山陽本線の鉄道用地に接した自分の所有地上を、境界に沿って、深さ約3.8m~4.3m、幅約2m、長さ約76mにわたりパワーショベルで掘削。
 これにより、同境界と線路が最も近い場所付近にあった上止69号電柱付近の土砂が崩壊し、土地の境界杭が落下したほか、国鉄側が同電柱を防護すべく打ち込んでいたH鋼も滑り落ちました。
 同電柱付近の路盤(軌道を支えている基盤)の掘削断面上端部は、同電柱から約0.6mの距離まで迫り、線路の軌道敷自体は緩まなかったものの、盛土の法面勾配(垂直高さ:水平長さ の比率)に関する国鉄の安全基準を大幅に超える急傾斜となったのです。

 国鉄の保線(線路整備)担当者は、掘削現場にいたXに掘削をやめるよう警告し、電車の徐行や電柱防護措置などをとったうえ、電柱の倒壊等による乗客への危険を懸念して電車の運行を中止しました。

 原審は、Xの行為から地すべり等が生じる可能性は低いとしながらも、物理的な実害発生の可能性の有無を問わず、通常人が「実害発生の可能性がある」と相当な理由をもって認識したなら「往来の危険」があったと判断できるとして、Xに往来危険罪を成立させました。

 これに対し弁護側は、「往来の危険」を実害の生じる物理的可能性に求め、電柱付近の路盤は物理的・土木工学的に見て不安定な状態ではないため、これを満たさないとして上告しました。

 最高裁は上告を棄却。
 まず、刑法125条1項にいう「往来の危険」とは、電車等の脱線、転覆、衝突、破壊など、「交通機関の往来に危険な結果を生ずるおそれのある状態」だと示しました。
 その上で、この認定には単に交通を妨害しただけでは足りないけれど、上記脱線等の実害が当然に、または高確率で生じることまでは必要でなく、実害の発生する危険性があれば足りるとしました。

 そしてこれを基準に本件を検討したところ、

  1. 掘削行為の規模や掘削断面と電柱等の位置関係
  2. 当時の国鉄職員・工事関係者らが、「Xの掘削が原因で電柱付近に地すべりが生じ、同電柱の倒壊や電車の脱線など、安全な走行を妨げる極めて危険な状態にある」と一致して判断しており、この認識は、現場の状況から合理的だったといえること

から、実害の発生する可能性があったと認めたのです。

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