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空ピストルと不能犯

~福岡高裁昭和28年11月10日判決~

 毒薬だと思ってお茶に砂糖を混入し、人に出す。
 「普通、砂糖で人は殺せないよ」と笑われるでしょうが、このように犯罪を実現させようと行った行為が、その性質上、到底犯罪を実現できないものである場合を「不能犯」といいます。
 不能犯の行為は危険性が極端に低いため、未遂犯(犯罪の実行行為に着手したものの結果が発生せず、犯罪が完成しなかったもの)としての処罰にも値しないとして不可罰になります。

 今回の事案では、被告人の行為が不能犯となるか、殺人未遂罪(刑法203条)となるかが争われました。

 被告人Xは、公務執行妨害罪(同95条)で緊急逮捕されるにあたり、逃走しようとして巡査Aと格闘しましたが、Aにねじ伏せられ、手錠を掛けられそうになりました。
 この時Xは、とっさにAを殺害して逃走しようと決意。
 隙をうかがってAが右腰に着装していた拳銃を奪い、そのままAの右脇腹に銃口を当て、2回にわたり引き金を引きましたが、たまたま実弾が装てんされておらず、殺害の目的を遂げませんでした。
 実弾が装てんされていなかったのは、多忙だったAが、当夜だけ偶然にも装てんを忘れていたからだったのです。

 1審はXに殺人未遂罪を成立させ、X側は「空のピストルで人を殺すことはできないのだから不能犯である」として控訴しました。

 福岡高裁は控訴を棄却。
 まず、制服を着用した警察官が勤務中着装している拳銃には、常に弾が装てんされているべきものであることは広く一般に認められていると示しました。
 その上で、この勤務中の警察官から拳銃を奪い、殺害の目的をもって人に向け、発射しようと引き金を引く行為は、殺害結果という実害を生じさせる危険性があると認定しました。
 この行為の危険性の高さから、たまたまその拳銃に弾が装てんされていなかったとしても、殺人未遂罪の成立に影響はなく、不能犯とはならないと判断したのです。

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