サイト内検索:

意識の深層における殺意と故意

~高松高裁昭和31年10月16日判決~

 刑法では、わざと、つまり「故意」で行った行為でなければ基本的に罰されません(38条)。
 たとえば、怪我をさせるつもりで死なせてしまった場合、傷害の故意はあっても殺人の故意はないため、殺人罪同199条)ではなく傷害致死罪同205条)になるのです。

 このように、故意が認められるかは、犯人がどんな結果を発生させようとしたかが大きく影響します。
 今回の事案では、殺人という結果発生を明確に認識していなかった犯人に対し、故意を成立させられるかが争われました。

 被告人Xは、以前Aに殴打されたことを根にもっており、次にAを見つけた場合には巡査に訴えて懲らしめてやろうと考えていました。
 ある日、Aが飲食店Pに来ていることを知ったXは、巡査を呼びに行くよう妻に指示しました。
 ところが、既に約6合の清酒を飲んでいたXはその返事が待ちきれず、Aに対する恨みを晴らすため刃渡り15、6㎝の包丁をタオルに包んで懐にしまい、Pに乗り込みます。
 Aを戸外へ連れ出して対峙し、興奮したXは、持ってきた包丁でAの腹の真中辺を突き刺して失血死させました。

 1審はXに殺人の故意を認めて殺人罪を成立させましたが、弁護側は故意なしとして控訴しました。

 高松高裁は控訴を棄却。

 まず、殺人罪の故意(殺意)を認めるにあたっては、必ずしも殺意が犯人の意識の表面に明確に表れている必要はないと示しました。
 したがって、意識の表面に現れていなくとも、意識の深層に殺意があり、犯行時夢中で人体の重要部分に重大な傷害を与えたような場合は、「殺人罪の故意あり」というべきケースもあるとしました。
 すなわち、激情にかられて我を忘れ、日本刀で人の首を狙って切りつけたり、刺身包丁を胸板めがけて突き刺したりして死なせてしまった場合には、その犯人が犯行を終えた瞬間平静に返り、「こんなはずではなかった、殺す意思はなかった」と事実反省したとしても、犯人に精神上の欠陥がなかった以上、それは意識の表面の問題に過ぎないのであって、意識の深層にある殺意をもって殺人罪の故意を認めるほかないというのです。

 以上の考えから、本件Xは恨みを晴らす目的で(意識の深層にある殺意をもって)Aの臍辺りという重要部分を包丁で深く突き刺し、大刺創を与えて死亡させたのであって、殺人罪が成立すると結論付けました。

ページトップへ