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特別公務員暴行陵虐罪と被害者の承諾

~東京高裁平成15年1月29日判決~

 特別公務員暴行陵虐罪ってどんな罪?と思った方もおられるでしょうが、そう難しい罪ではありません。
 法令で捕まっている者に対し、看守や護送をする者が暴行等によって精神的・肉体的辱めや苦痛を与える(陵辱・加虐する)ことを禁ずるものです(刑法195条2項)。

 今回の事案では、留置場の看守が相手の承諾を得て被留置者を姦淫した場合に、この「陵辱」にあたるかかが争われました。

 警察官である被告人Xは、逮捕・留置中のAの看守を務めていましたが、留置所内の巡回の際、Aから何度も手紙を渡されていました。
 手紙は、世話になることへの感謝などからラブレターのようなものに変わり、その回数が増え、次第に内容も過激になっていきました。

 あるとき、Aは体調を崩した同室の者が死んでしまったことに衝撃を受け、一種のストレス状態に陥ります。
 このケアのためにAの話し相手を命じられたXは、頻繁にAと話すようになり、彼女に好意を抱くようになっていきました。
 そのうち性欲を抑えきれなくなったXがAに性交の意思があるか尋ねたところ、Aが軽く頷いたため、XはAと性交。その後も7回にわたってこの関係を続けました。

 1審は、Xの姦淫行為を「辱めを与える行為」と認定し、特別公務員暴行陵虐罪を成立させました。
 これに対し弁護人は、AはXと性交することを承諾・意欲していたのだから、Xの行為は「陵辱」にあたらないと主張し、控訴しました。

 東京高裁の結論は控訴棄却でした。

 被拘禁者を実力支配下に置くという性質上、看守者等の職務には被拘禁者に職務違反行為をはたらく危険が伴うと指摘。
 特別公務員暴行陵虐罪は、こうした危険性をとらえ、看守者等が被拘禁者に精神的または肉体的苦痛を与えた場合を処罰する趣旨で定められたものと説明しました。

 そして、この「精神的または肉体的苦痛」の中には明らかに「看守等による被拘禁者の姦淫(性交)」が含まれるとして、Xに同罪の成立を認めたのです。

 しかし、合意のうえでの性交がなぜ苦痛なのでしょうか。

 実はこの特別公務員暴行陵虐罪、「汚職の罪」に分類されるものであり、第1目的として「公務執行の適正とこれに対する国民の信頼」という国家的・社会的利益の保護が挙げられているのです。
 どちらかというと個人的権利を守ることには重点が置かれていないため、現実に相手方Aが承諾したか、精神的または肉体的苦痛を被ったかは問わないというわけです。

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