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都市ガスの危険性と不能犯

~岐阜地裁昭和62年10月15日判決~

 犯罪を企んで何か行動を起こしたものの、その行為では到底その犯罪を実現することはできないという状態を「不能犯」といいます。
 たとえば、人を殺そうと丑の刻参りをする行為は不能犯です。
 不能犯では、そもそも犯罪結果発生の危険性すら生じていないため、罰するほどのこともないとして不可罰になります。

 今回の事案では、一酸化炭素を含まない都市ガスを使って中毒死をはかる行為が不能犯になるかが争われました。

 長女Aと次女Bを道連れに無理心中を決意した被告人Xは、寝室で子供2人を寝かしつけた上、ガムテープで目張りをするなどして締め切り、室内に都市ガスを充満させました。
 しかし、Xを尋ねてきた友人Cに発見され、心中計画は失敗に終わります。

 検察側は殺人未遂罪刑法203条)としてXを起訴しました。
 これに対し弁護人は、天然ガスである都市ガスには一酸化炭素が含まれておらず、人体に無害なので、不能犯だと主張しました。

 岐阜地裁は、Xに殺人未遂罪を成立させました。

 Xが漏出させた都市ガスは天然ガスなので一酸化炭素が含まれておらず、中毒死のおそれはないとした一方で、地裁はガス漏出に伴う危険を指摘。
 すなわち、室内の空気中のガス濃度が4.7%~13.5%になれば、電気器具(冷蔵庫のサーモスタットなど)や衣類などから発する静電気を引火源としてガス爆発事故が発生する可能性があると示しました。
 さらに、空気中の酸素濃度が16%以下になれば、酸素欠乏症が生じて人体に脈拍・呼吸数増加、頭痛などの症状が現れ、酸素濃度が10%~6%以下になれば、6~8分後には窒息死するとも示しました。
 こうした事情に照らせば、約4時間50分も都市ガスが漏出し、室内に充満した本件では、殺人の結果発生の危険が十分生じうるというのです。

 また、都市ガスで自殺しようとしたX自身の認識や、「Xがガスで自殺を図ったものと思った」という発見者Cの供述、「室内に入った後、親子3人のいずれかの頭部付近が少し動いたのを見て、まだ死んでいないなと思った」というX宅の家主Dの供述から、一般人は都市ガスを本件のような状態で漏出させることを「室内の者を殺害するに足りる極めて危険な行為」と認識していると指摘。
 社会通念上もXの行為は殺人の危険があるとしました。

 以上から、Xは不能犯ではないと判断したのです。

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