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夫権の防衛

~福岡高裁昭和55年7月24日判決~

 正当防衛とは、差し迫った危険から身体や財産を守るために反撃に出ることをいい、刑法上は罰されません(刑法36条1項)。
 しかし、これが行き過ぎると、過剰防衛として刑を減軽または免除することになっています(同2項

 今回の事案では、この「守る対象」に、「夫の権利(夫権)」が含まれるかが問題となりました。
 すなわち、夫権の防衛のためにした攻撃は、正当防衛や過剰防衛と認められるかが争われたのです。

 被告人Xの妻Bは、Aと親密な間柄となり、2人の子供を連れて家出をします。
 家族の行方を捜したXは、Bと子供がAの実家にいるのを見つけ、すぐに自分の家に連れ戻しました。
 後日、AがXの家を訪れ、今後について2時間以上話し合ったものの、折り合いがつかず、ついには「Aと一緒に行く」と言い出したB。
 Bを引き止めようとXが台所側入口に立ち塞がると、Bを逃げ出させようと、AはXに背後から抱きつきます。
 Xはこれを振りほどこうとAを投げ倒しましたが、すぐに起き上がろうとしたAを見て、「何をされるかわからない」と思いました。
 そこでXが流し台にある包丁を取ろうとしたところ、再びAがXに背後から抱きついてきたため、XはまたAを投げ倒しながらも、「このままではBに逃げられてしまう、こうなった以上ことの決着をつけるためには、Aを殺害するのもやむを得ない」ととっさに決意します。
 そして、その直前流し台下から取り出していた出刃包丁で、仰向けに倒れていたAの胸部めがけて力一杯突き刺し、起き上がろうとするAの左肩なども数回切りつけてAを死亡させました。

 弁護側はXの過剰防衛を主張しましたが、1審はこれを斥けたため、X側が控訴。

 福岡高裁は、「Xがその妻と住居を共にして性的生活を共同にする等の利益(夫権)」は法の保護を受けるのが当然と示しました。
 そのうえで、Bと情交関係を結び同棲してXの婚姻生活を破壊したAが、Xの家まで来てBを連れて行こうとし、Xがこれを制止しようとするのを実力で妨害したという事情を「非常識」な「夫権に対する差し迫った不正の侵害」と評し、これを防衛・排除することも許されるとしました。

 したがって、Aによる上記侵害に対し、夫権を守ろうとAを投げ倒して反撃的態度に出たXの行為は、防衛のためのやむを得ない行為と認めました。

 ただ、その後の、殺意をもって出刃包丁をAに突き刺した、死亡させた行為は、客観的に見て防衛に必要・相当な程度を超えているため、Xの行為を全体的に観察すれば、過剰防衛にあたるとしました。

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