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被害者の逃走・転倒と因果関係

~最高裁昭和59年7月6日決定~

 被害者が暴行から逃れるため不合理な行動をとり、それが原因で死亡するというケースは案外あるもので、そのたびに裁判で加害者の暴行と被害者の死の因果関係が争われてきました。
 今回の事案もそのひとつです。

 ある冬の午前3時過ぎ頃、被告人Xら3人は、被害者Aを墓苑内に連れ込み、Aの顔面を手拳で殴打し、転倒したAの腹部等を足蹴りするなど激しい暴行を加えていました。
 AはXらの暴行から逃れようと隙を見て逃げ出しましたが、墓苑内の池に落ち込み、露出していた岩石に頭部を打ち付けてしまいます。
 その時Aは後頭上部に擦過打撲傷を負い、これが原因でくも膜下出血を生じて、約1週間後に死亡しました。

 1・2審はXに傷害致死罪刑法205条)を成立させました。
 これに対し、弁護側は、積雪厳寒の時期、午前3時という気温の低下した時間帯に、落ち込めば凍死するかもしれない危険な池の方向にAが逃げるとは経験上予想できないと主張し、Xらの暴行とAの死亡との間に因果関係はないとして上告しました。

 最高裁は上告を棄却。
 本件Aの死因となった、くも膜下出血の原因(頭部擦過打撲傷)が、たとえ、Xらの暴行から逃れようとしたAの行動から生じたものであっても、Xら3人の暴行とAの受傷に基づく死亡との間に因果関係はあるとして、原審の判断を正当であると結論付けました。

 最高裁はこう考えた理由を明確には示していません。
 しかし、一般的に、被害者が自分の行動の危険性を十分に認識した上で、自由意思に基づいて致命的な行動をとった場合は、「予想しえない被害者の行為が介在した」として加害者の暴行と被害者の死との因果関係は否定されると考えられています。
 したがって、Xらの暴行とAの死との因果関係を肯定した今回の判例は、一見不合理なAの逃走行為も、Xらの執拗な暴行により動転したAが、「焦りから危険な池の存在に気付けなかった」または、「心理的に追い詰められ仕方なく選択した」と考える余地があり、Aの致命的な行動は「予想可能なものであった」と判断したから導かれた結論であると思われます。

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