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身代金目的誘拐での被害者解放

~最高裁昭和54年6月26日決定~

 身代金目的誘拐罪は、無期または3年以上の懲役に処される重罪ですが(刑法225条の2)、事件が公訴されるまでに、犯人が被害者を安全な場所に解放すれば、刑が減軽されます(同228条の2

 今回の事案では、被告人Xの行為が、この「安全な場所に解放した」という場合にあたるかが問題となりました。

 被告人Xは、身代金目的の誘拐を決意し、小学校1年生のA(当時6歳)に「母親から頼まれて迎えに来た」などと嘘をつき、普通乗用車に乗せて誘拐しました。
 Xはその後8時間ほど身代金の要求方法を考えていましたが、次第に決意が鈍り、Aを両親のもとに返そうと考えます。
 そして公衆電話からA宅に電話し、父親に「Aちゃんは自分が預かっている。申し訳ないことをした。15分以内に車から降ろして、その場所を連絡する。」と告げました。
 その5分後、Xは中学校校庭と民家数軒に挟まれた道にAを降ろし、「パパに電話してすぐ迎えに来てもらうから、ここで待っていてね。」と告げて立ち去り、Aを解放しました。

 Aは、10分ほどで付近住民のFに発見されてF方に保護救出され、さらにその10分頃には父親に引き取られました。

 Xは、Aを解放した後、その場所をAの自宅などに通知するため、ただちに数か所の公衆電話から再三A宅に電話しましたが、通じず、やっと電話が通じた頃には、AはすでにF方に保護されていました(電話が通じなかったのは、おそらくA宅とF方・警察署との電話連絡と重なったため)。

 原審は、Xに228条の2による刑の減軽を認めませんでした。
 これに対し弁護側は、事実誤認や量刑不当を理由に上告します。

 最高裁は、228条の2のいう「安全な場所」を、「被害者が安全に救出されると認められる場所」と考え、これを判断する材料として解放場所の位置、状況、解放時刻、方法、被害者を帰すため犯人が講じた措置、被害者の年齢、知能程度、健康状態などをあげました。

 また、身代金目的誘拐罪は被害者殺害の可能性も高い危険な犯罪なので、犯人の自発的・積極的な解放に利益(刑の減軽)を与えることで、不幸な事態を防ぐ目的もある点を指摘。
 このことから、犯人がある程度容易に犯罪から手を引けるよう、解放手段などを判断する際、通常の犯人に期待し難いような細心の配慮までは要求しないとしたのです。
 同様に、「安全」の意味も、被害者の救出までに具体的・実質的危険のおそれがなければよく、漠然とした抽象的危険や不安感を理由に安全を否定することはできないとしました。

 本件では、XがAを解放したのがA宅から数㎞とAの知らない地域であり、解放時刻には人通りが少なかったこと、解放後Aの安否を見守るなどしないで立ち去ったこと等から、解放の場所、時刻、方法は必ずしも適切ではなかったとされました。
 しかし、解放地点は民家のそばで危険でなく、民家の者による救出も期待できるし、Xの解放前後の種々の努力から、もしFの救出がなくとも、Aはまもなく救出されたと評価されました。
 以上から、Xの行為は刑法228条の2の刑の減軽対象になるとされたのです。

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